原薬の製造にバイオタージ製
金属スカベンジャーSi-Thiolを有効活用。
サステナブルな処方構築に新しい選択肢!
~ Pd除去に効果あり、定法に置き換わる新しい選択肢 ~
エーザイ株式会社
本日は、エーザイ株式会社 鹿島生産品質技術部 芥川部長、大井シニアマネージャーにBiotage製スカベンジャーを用いた効率的な金属除去やその将来性についてお話を伺いました。
- この度はユーザーインタビューを御承諾いただきありがとうございます。ご在籍の鹿島生産品質技術部というのは一般的なプロセス化を担当する部署のようにイメージしていましたが、改めましてご在籍の部署に関しましてお話を伺えますでしょうか。
芥川様 : 鹿島事業所では「病気を治したい」という患者様の真の想いや患者様のご家族の心からの願いを叶える医薬品の有効成分(原薬)を製造しています。原薬に関する研究と製造の中心的な役割を担う工場として、当社が創出した医薬品の有効成分を鹿島から世界中にお届けしています。我々、商業生産部門の鹿島生産品質技術部は、研究開発部門との新製品群のプロセス検討への参画、商用品の品質改良やコスト改善などの課題解決、次世代スマート工場への設備検討や設備導入・保全など多岐の業務を担当しています。
大井様 : 私は、プロセス研究で得られた処方に基づき生産スケールに実装するまでのスケールアップに伴う諸課題に対して改善を行う、また商用品の実製造で起こる課題に対して原因究明と是正策の立案・実行にあたることを主に担当しています。
私にとって、プロセス研究とはスケールアップに適した合成工程の最適化と治験薬製造までのイメージですね。一方、私たちの組織は研究開発部門と協働しながらさらなる品質改良や原価低減を企図した次世代製法の検討、連続生産など商業生産に適した新技術の開発検討なども組織の重要なミッションです。医薬品業界を取り巻く環境の変化から最近はこういったミッションは重要度を増していますね。
- なるほど、プロセス研究でも研開部門と生産部門で協働しつつ工程改良が図られているのですね。では今回ISOLUTE® Si-Thiol(以下Si-Thiol)をご導入されたきっかけは何ですか?
大井様 : あるシンポジウムで原薬製造工程にフロー系でスカベンジャーを用いた例が紹介されていたのと、御社のウェブサイトにあるSi-Thiolのユーザーインタビューがきっかけです。これまでは製造レベルでスカベンジャーを使用するのは弊社では採用実績がないため難しいと考えていました。承認を受けた製法の変更は手続きが多く難しいのは一般的に知られていることですが、今回、治験薬段階のプロジェクトに参画しており、処方検討する機会に恵まれましたので、新しい方法論の構築を目指し挑戦しました。
具体的には、新規医薬品候補化合物(原薬)の最終工程の製造処方決定の一環として、原薬中のパラジウム(以下Pd)残留量を基準レベル以下に制御することが必要でした。数々検討する中で、スカベンジャーに効率的なPd除去能があることがわかり、検討を本格化させる大きなモチベーションになりました。
- ラボスケールだとスカベンジャーはメジャーになりつつあるのですが、製造スケールの最終工程へのアプローチは貴重な事例として興味深いです。今回の除去ターゲットはPdということでしたが、これまではどのような方法で取り除いておられましたか?
大井様 : カラム精製や結晶化を第一選択として検討しています。しかし、カラム精製は特に製造スケールでは消防法に合致した設備導入が必要となり、汎用性やスケールアップでのハードルがあります。また、結晶化も、ほとんどの医薬品原薬中の分子内にはヘテロ原子を含むことから、それに親和性のあるPdは効率的に除去できませんし、原薬のロスも無視できません。今回の事例で言えば、水溶性の配位子と分液操作により、Pd除去を試行しました。効果的なPd除去は達成したものの、この方法の欠点は、分液操作を伴うため、若干ですが標的分子をロスします。同時に、水相にレアメタル(Pd)を廃棄することになり環境負荷も課題でした。
- 環境負荷に関しては今いろいろな企業が問題として取り上げていますね。
大井様 : 社会の一員として、持続可能な社会を構築していくことは企業としての責務です。今回の条件では、理論上用いたPdのほとんどをスカベンジャー上に回収できる点も長所でした。Pdはレアメタルですので、この方法は環境負荷低減につながるサステナブルな手法ということができます。もちろん実際の製造プラントへの適用には、まだいくつか検討するべき点もあると思います。今回の検討はバッチ法でなくカートリッジにスカベンジャーを充填したフロー系での検討を行いました。
- スカベンジャーの使用様式も検討の課題というわけですね。確かにご導入いただいている他のユーザーもフロー系での検討を行っておられます。では数あるスカベンジャーの中で、Biotage製のSi-Thiol導入の決め手になった点はどこでしょうか?他社製品と比べて優れていると感じた点はありますか?
大井様 : 医薬品はGMPに基づき高い品質でかつ安定的に供給することが求められます。そのためには、原料に対しても要求品質・物量を安定的に供給する能力があるかが必要になります。また、メーカー選定において、品質保証契約PQA (Product quality agreement)が結べることも重要な要素でした。本テーマでは最終工程に導入予定でしたので、Si-Thiolからの溶出物のコンタミも懸念されましたが、製造で使用するまえにプレリンスを行うことで、Si-Thiol由来の成分が原薬に混入しないことを確認できたことも導入への大きなポイントでした。コスト的にも安価なものではありませんが、他社メーカーと比較して競争力はあったと評価しました。
- Biotage製Si-Thiolは品質に関しては他社品よりも優れていると評価をいただいております。原薬製造の最終工程で使用可能だったということは、我々も製品に自信を持つことができます。Si-Thiolをご使用した今後のプランなどございましたらお聞かせいただけますか?
大井様 : Si-Thiolを製造処方として組み入れ、実生産(プロセスバリデーション)を計画しています。今回の検討から、実用性が証明されたのでスカベンジだけでなく反応停止や副反応の制御、不純物の除去など、いろいろな局面での活用を図りたいと思います。Si-Thiol以外も検討したいですね。
- 今後ともバイオタージをよろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございました。
インタビュー実施:2023年5月26日
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導入機関
エーザイ株式会社 鹿島事業所
所在地:茨城県神栖市砂山
エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患をターゲットに革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。