細胞内への送達効率と細胞における安全性を
両立したペプチドの発見に Syro I が大活躍
京都大学化学研究所二木研究室 川口先生
京都大学化学研究所二木研究室では、生体内で特異な機能を有するペプチドの設計に取り組まれています。少量多品種のペプチド合成にあたり、全自動パラレルペプチド合成装置 Syro I を活用されているとのことで、川口先生、学生の道端惇也さん、上畑祐介さんにお話を伺いました。
― 研究内容について教えてください。
川口先生 :
細胞内にタンパク質を運ぶための適切なペプチドの探索を行っています。この研究では、膜傷害性ペプチドを鋳型として適切なペプチド配列を網羅的に探索する必要があるため、少量多品種のペプチド合成を行っています。これまでの研究では上手く細胞内にタンパク質を送達できても毒性が高いというのが課題でした。Syro Iを使うことで、あらゆるパターンのペプチドを簡便に合成することができるようになったこともあり、直近の研究成果で、細胞に対する安全性とタンパク質送達効率を高めることができるペプチドを開発することに成功しました。
― それは楽しみですね。これからの研究成果を期待しています。Syro Iの導入経緯について教えてください。
川口先生 :
現職に着任した時にはすでに他社の全自動ペプチド合成装置が導入されていました。当初はそちらを使っており、加熱条件下での最低合成スケールが300 μmolと大量合成には向いているものの、私たちが求める合成スケールは数μmolであることから少し乖離していました。他にも8検体までパラレル合成できる装置もあり、粉体で試薬をセットする装置のため試薬の無駄は少ないのですが、ペプチド合成前の準備に対する負担が大きかったと思います。
道端さん :
ス テップごとに試薬を計量してセットする必要があるので、とても手間がかかります。例えば10残基の合成の場合、1ステップごとに使用するそれぞれのアミノ酸や試薬を計量し、それを10回分繰り返します。これは合成本数に応じて試薬計量が比例して増えることになります。
◆他社製品よりも安定稼働とサービスの信頼性が決め手
― なるほど、それは大変そうですね。
川口先生 :
既設の装置では合成に時間を要したり、合成本数に制限があり、スローペースな進捗であった中、予算をいただくことができたので、新たに少量多検体のパラレル合成装置の導入を検討することにしました。先ほどお話ししたものとは違うメーカーの装置も、過去に使用した経験があります。目的のペプチドは合成できていましたが、装置の運用やメンテナンス面で問題が多かったです。流路が詰まる等のエラーが発生してサービスマンを呼ぶことありました。御社のInitiator+ AlstraとSyro Iもその当時使っていました。これらの装置は使い勝手がよく、高い安定性から装置もサービスも信頼していたので、現在の研究テーマと合成スケールの観点からSyro Iを導入することにしました。
◆文献の配列をメモ帳にコピーで簡単入力&操作ミス防止
― 実際に導入されて感じているメリットを教えてください。
川口先生 :
試薬を溶液でセットして合成できることはメリットです。装置への試薬準備は簡単になりました。そして、装置の堅牢性が高いため、メンテナンスが楽になりました。既設の装置は合成後にシステム全体のラインを洗浄するのにジクロロメタンを大量に消費していたので、溶媒コストと環境への影響という点で気になっていました。また、合成の度にセルフメンテナンスが必要で、容器も専用のもので再利用しないといけないため入念な洗浄が必要でした。Syro Iは合成後のセルフメンテナンスが簡単で、送液ラインもそのままシステム溶媒を満たしておくだけです。ラインの洗浄をするときもアルコール溶媒を使用するため、環境負荷は少ないです。
道端さん :
合成で使用するすべて試薬を溶液で準備できるので、合成前の準備はすごく楽になりました。
これまでは、合成の度にメンテナンスのために1時間の余分な時間がかかっていましたが、それがなくなりました。また、配列やメソッドの作成するときにキーボードで入力しやすいのと、配列をメモ帳に書けるのがメリットです。他社装置はソフトウェアで直接入力しないといけないため、操作過程で入力ミスしやすいです。Syro Iでは参考文献からメモ帳にコピーして使えるので、入力ミスの心配がないです。
Syro Iで合成したペプチドはほとんどが高い純度で合成できています。実験で使用するペプチドは95%の純度が必要なので、合成後の精製の負担が軽減されたと思います。
― 合成前と終了後はかなり楽になりましたね。Syro Iの運用は実際にどのようにされていますか?
道端さん :
合成の本数は1本のときもあれば、10本以上のときもあります。合成スケールは数mgスケールが多いです。実験で多くのペプチドが必要だったり、合成収率が不安だったりするときは、収量を確保するために同じ配列を複数本用意して対応しています。アミノ酸溶液などは数回の合成分をまとめて調製することもあります。このストック溶液から必要な量をセットすることもでき、その都度溶液を調製することなく合成することもできます。
― 改善点やご要望などありましたらお聞かせください。
川口先生 :
昔からMac PCを使用しているので、ソフトウェアがMac対応だとありがたいです。
道端さん:
合成する配列をソフトウェアへインポートするためのテキストファイルへ自動スペース入力ができるようになると嬉しいです。
― 貴重なご意見ありがとうございました。今後ともバイオタージ製品をよろしくお願いいたします。本日はお忙しい中ありがとうございました。
インタビュー実施:2023年10月3日
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導入製品
全自動パラレルペプチド合成装置
Biotage® Syro I
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/peptide-synthesis-purification/syro1/
利用機関
京都大学化学研究所二木研究室
https://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~bfdc/index.html
私たちの研究室では「化学」と「生物」の両方の視点から生体内で優れた機能を発揮する分子をデザインし、細胞への薬物の取り込み・転写・細胞内への情報伝達などをコントロールするユニークな方法論の開発を目指しています。