第三の生命鎖「糖鎖」の革新的な合成法開発に
フラッシュ精製装置Selektが大活躍
半日かかっていた数十グラムの精製も1 時間以内で誰でも可能な環境に!
東海国立大学機構 岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖創成化学研究室
東海国立大学機構 岐阜大学 糖鎖生命コア研究所の糖鎖創成化学研究室では、第三の生命鎖と呼ばれる「糖鎖」の分子レベル機能解明を目指し、革新的な糖鎖合成法の開発に取り組んでいます。その化合物精製の際にバイオタージのフラッシュ自動精製装置「Selekt」をご活用いただいています。今回は同研究室の田中秀則助教、河村奈緒子特任助教にお話をうかがいました。
― まず、先生のご研究内容やテーマについて教えてください。
河村先生 :
私たちの研究室で取り組んでいるのは、「糖鎖」の合成研究です。
脊椎動物の全ての細胞膜表面は糖鎖で覆われており、この糖鎖でマスクされた細胞膜が細胞と外界との情報・物質交換などの生命活動の維持に必要不可欠なイベントを制御していると考えられています。そのため、糖鎖は細胞の設計図である核酸(第一の生命鎖)と骨組みであるタンパク質(第二の生命鎖)に続き、第三の生命鎖と呼ばれています。
これまでに生化学的な手法により糖鎖の重要性は明らかにされましたが、生命現象における分子としての機能を直接的に証明した例はほとんどありませんでした。もし分子レベルで機能を知ることが出来れば、糖鎖が関わる感染症、がん化や免疫異常など、人類の脅威となる疾患に対する医薬品の開発に繋がるはずです。
しかし、生体内における糖鎖の構造多様性と微量性の問題から研究対象となるサンプルの入手が難しく、核酸・タンパク質と比べ、糖鎖研究は遅れているのが現状です。そこで私たちは、糖鎖研究の長年の課題である研究対象となる糖鎖分子の供給を克服するため、地道にコツコツと糖鎖をつくる技術を長年磨き続けてきました。その結果、これまで実現不可能であったシアル酸(注釈1)の完全立体選択的グリコシル化反応の開発やガングリオシド(注釈2)の網羅的合成が可能になりました。更に、この糖鎖合成技術を活かして蛍光ガングリオシドプローブをつくり、ガングリオシドがつくる細胞膜ドメインを世界で初めて観察することに成功しました。
― 糖鎖の生命機能メカニズムを解明するには一定量の糖鎖分子の入手が不可欠で、糖鎖合成技術の開発は未知を解明するためのカギとなっているのですね。
田中先生 :
糖鎖合成は天然物合成と比べ華々しさはありませんが、糖鎖の底の見えない「ポテンシャル」が魅力的で、私たちが糖鎖合成を続けているモチベーションになっています。ただ糖鎖合成の問題点を一つ挙げるとすれば、一部で「保護基の化学」と揶揄されるように、保護-脱保護工程を繰り返す必要があるため、必然と合成総段階数が長くなることです。つまり、カラム精製も多くなることから、研究のスピードアップには自動精製装置の導入が有効と考え、精製装置の購入を検討するようになりました。
(注釈1)シアル酸:炭素9つから成り、分子内にアミノ基とカルボキシル基を持つ特殊な糖。細胞表面の糖鎖の末端に結合している。
(注釈2)ガングリオシド:シアル酸を含む糖鎖とセラミド(脂肪酸+スフィンゴシン)が結合した生体分子。
◆スマホ世代の学生に好評! 抜群の操作性とスタイリッシュなデザインが決め手
― そのような背景もありIsoleraをこれまで3台導入いただいたのですよね。今回、精製装置を増設する時にIsoleraではなくSelektを導入したきっかけやポイントを聞かせていただけますか。
田中先生 :
代理店からIsoleraの後継機であるSelektを紹介して頂いたのがきっかけでした。操作性の良さからIsoleraは学生に非常に好評であったため、更にもう一台導入することになりましたが、スタイリッシュなデザインと優れた機能が決め手となり、IsoleraでなくSelektを購入することに決めました。Isoleraと比べると少し値段が高めでしたが、偶然にもその年に予算が付いたこともSelekt購入を後押ししました。
― 他社との比較もされたと思いますが、その点はいかがでしょうか。
田中先生 :
これまでに他社の二つのフラッシュ精製装置を使用したことがありますが、タッチパネルを採用した操作性の高さはこれまでの装置より抜群に優れていると思います。Isoleraでも十分使いやすいのですが、Selektの方がより直感的に操作できるため、取扱説明書を見なくても使用できます。このため、スマホ世代である学生はSelektを好んで使用している傾向があります。加えて、2チャンネルで精製できるため、Selekt一台でIsolera二台分の働きをしてくれるのも気に入っているポイントです。
◆Sfärカラムとの連携で高分離と高速を両立! スケールアップ精製が半日⇒1時間以内に!
河村先生 :
Selekt導入の決め手となったのはデザインと機能ですが、特に重要視したのが数十グラムの中量スケール合成にも対応できることでした。SelektはSfärカラムと組み合わせることで、高分解能かつ高流速で高速精製が可能です。糖鎖合成において単糖ビルディングブロックの量上げは合成の成否を決めるといって過言ではなく、研究室に配属された学生はほぼ例外なく量上げのカラム精製で最初の地獄を味わいます(笑)。
配属間もない学生がマニュアルで中量スケールのカラム精製をすると、化合物を溶出するだけで半日程度かかり、溶媒留去まで含めると朝から晩までずーっと実験台に付きっきりです。やはり一日拘束されるのはしんどいですよね。ですが、Selektを使用すれば上述の同じ精製を1時間以内で誰でも完了できます。学生が量上げのカラム精製を嫌がることなく実施してくれる姿を見て、Selektを導入して本当に良かったと実感しています。
― 同じ精製の工程が5倍以上短縮されるのは大きいですね。
◆試験管ラック自動検出機能がヒューマンエラー防止に役立っています
田中先生 :
高流速により圧倒的な精製時間の短縮と試験管ラック自動検出機能がSelektの利点だと思います。糖鎖合成で律速段階なのはカラム精製であるため、前者は研究のスピードアップに確実に繋がっています。また、後者ですが、Isoleraの使用時で時々ある試験管ラックの誤選択での失敗を完全に防止できます。私も含めうっかりさんは必ずいますので、ヒューマンエラーを防止する機能は非常に助かっています。加えて、2チャンネルで精製できるため、Selekt一台でIsolera二台分の働きをしてくれるのも気に入っているポイントです。
― Selektのデメリットやバイオタージに対するご要望などありましたらお願いします。
田中先生 :
TLCデータからメソッド最適化する機能がありますが、溶媒の組み合わせによって精度が良くないことがあります。
ヘキサン/酢酸エチルの系は精度良く条件作成されるのですが、高極性化合物でよく用いられる二溶媒系では精度が低いことです。例えばクロロホルム/メタノールやトルエン/メタノールだと、思ったより早く溶出してしまうことがあって、改善していただければ助かります。これはどこのメーカーでも同じですけどね。
― おっしゃる通り、弊社に限らずフラッシュ精製装置メーカー共通の課題と認識しております。克服できると精製がもっと楽になりますよね。運用面でのご提案にはなりますが、装置の前に張り付いて出てきたところを保持ボタンでデータとして残しておけば、似たようなTLCの時に次回からそのメソッドを呼び出して使うというのが、現状の解決策になりますね。他にご要望、ご意見ございませんか?
田中先生 :
研究室にIntiator+もあるんですが、スケールアップに少し問題があります。バッチ数を増やせばいいんですが、面倒なので、マイクロウェーブをフロー合成につなげることができればといいなと思っています。
― そういうお声は他にもいただいたことがあります。今フロー合成は注目されているので、連携できるような装置開発が今後されるといいなと個人的に期待しています(笑)。
田中先生 :
Selektでもう一つ要望がありました。溶媒残量のカウントが実情と合わないことがあって、溶媒枯れさせる学生がチラホラ(苦笑)。溶媒残量を自動的にカウントするセンサーみたいなものがあると嬉しいです。
― 実際に入っている量より多く見積もられると、溶媒枯れしてしまいますね。センサーがあることで溶媒枯れのリスクが減りますね。大変参考になります。貴重なご意見、ご要望をありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。本日はお忙しい中ありがとうございました。
インタビュー実施:2020年11月
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導入製品
フラッシュ自動精製装置
Biotage® Selekt
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/selekt/
利用機関
東海国立大学機構 岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖創成化学研究室
岐阜の地は,清流の国と称される豊かな自然に恵まれ、東西文化が接触する地理的条件や歴史的な背景による多様な文化と技術を創造し、伝承してきた。東海国立大学機構の構成大学である岐阜大学は、岐阜の地のこのような特性を継承するとともに、「人が育つ場所」という風土の中で「学び、究め、貢献する」人材を社会に輩出する。