株式会社日吉 技術部分析研究課ダイオキシン係

ダイオキシン類測定のサンプル前処理に窒素吹付高速
パラレル濃縮装置「TurboVap® LV」を活用

多検体を同時に、均一に処理できる点が魅力

株式会社日吉 技術部分析研究課ダイオキシン係
株式会社日吉 技術部分析研究課ダイオキシン係

株式会社日吉は、環境測定や食品成分分析、環境インフラ施設の維持管理、工業薬品販売を手掛け、環境問題対策に科学的に取り組むトータルソリューション企業です。特にダイオキシン類の分析については、自社開発したケイラックス® アッセイ法という独自技術で知られます。このダイオキシン類分析用サンプル前処理のために、2019年6月にバイオタージの窒素吹付高速パラレル濃縮装置「TurboVap LV」を導入されて、多数検体の同時濃縮を実施されています。ダイオキシン類の検査方法や「TurboVap LV」導入による作業効率の向上等について、同社の技術部分析研究課・松田涼博士にお話をうかがいました。

― 最初に御社の概要について教えていただけますか?

松田さん :
当社は1958年の創業で、廃棄物収集運搬から環境保全事業を始めました。それに伴って排水の水質分析を始め、そこから飲料水の分析や空気環境の測定、上下水道施設の管理などを自治体から受注するようになりました。並行して水処理に使う薬品などの販売も始め、高分子凝集剤を使う滋賀県内の浄水場では6~7割のシェアがあります。現在は「分析・測定」「施設管理」「工業薬品販売」、それに土木や建設を含む「環境保全」を四つの柱としています。また弊社は「環境問題に国境なし」の考えのもと、海外展開にも積極的に活動し、インドに子会社を設立したり、ミャンマーで水処理に協力したり、中国の大学や国家環境分析センターなどと共同研究を行ったりもしています。

株式会社日吉 技術部分析研究課ダイオキシン係

株式会社日吉 松田 涼さん

◆独自のダイオキシン類測定技術  ケイラックス® アッセイ法

― 松田さんご自身のお仕事をお聞かせいただけますか?

松田さん :
環境分析を担当しています。会社全体では空気や水、土壌の分析から、食品の栄養分析や衛生検査、DNA検査、放射能測定まで幅広く手掛けていますが、私自身はダイオキシン類の分析を専門に行っています。

ダイオキシン類はプラスチックやビニールなどの塩素を含む物質を燃やすと発生し、廃棄物焼却施設を持っている自治体や企業には、ダイオキシン類対策特別措置法によって測定が義務付けられています。ダイオキシン類は高温で分解される性質があり、300 ~ 400℃で発生し、800℃以上だと出てきません。ただ焼却炉を高温にしても、炉内にダイオキシン類の材料が残っている限り、燃焼を止めて温度が下がってくるとまた発生するということがあって、炉の中で合成と分解、再合成を繰り返しています。発生量を抑えるには、温度管理がポイントになってきます。

― ダイオキシン類の分析にはどういった手法があるのでしょうか。

松田さん :
もともと行政で認められていた公定分析法はHRGC/MS法と呼ばれるもので、ダイオキシン類の分析の基本であり、最も一般的な分析方法です。

― それはどういった分析方法ですか。

松田さん :
ダイオキシン類の簡易分析法で、特殊な培養細胞を使う生物検査法です。
HRGC/MSでは前処理したサンプルを装置で分析します。
ケイラックス® アッセイ法では、プレート上に撒いた細胞にサンプルを添加して、細胞の反応を測定します。この細胞はダイオキシン類に反応して発光する性質を持っていて、濃度が高いほど発光量が増えるんです。ダイオキシン類の標準物質を使って、検量線を立てることによって、サンプル中のダイオキシン類濃度を測定します。

― ダイオキシン類はどんな形で生体に作用するのですか?

松田さん :
細かな作用はよくわかっていないのですが、AhR(Aryl hydrocarbon Receptor)という受容体に結合すると、解毒酵素の発現を誘導することがわかっています。元々は生体が毒物から身を守る仕組みだそうなのですが、それが過剰反応してホルモンの異常や発がんなどの問題が起きると考えられています。
ケイラックス® アッセイ法では、その反応を利用してダイオキシン類を測定しています。測定に使う細胞には人工的に組み換えDNAを導入しており、細胞がダイオキシン類に曝露されると発光する仕組みになっています。つまり光によって、細胞内のリアクションをリアルタイムで見ているわけです。大規模な施設も必要ありませんし、培養も社内で行っています。ダイオキシン類にはいろいろな種類(異性体)があって、WHO(世界保健機関)ではダイオキシン類の毒性を種類ごとに決めていますが、そこで決められた異性体ごとの毒性とケイラックス® アッセイでの発光量が非常に正確に比例しているんです。HRGC/MS 分析でダイオキシン類の濃度を決めるにあたっては、ダイオキシン類の種類ごとに、毒性に応じた「毒性等価係数(TEF: Toxic Equivalency Factor)」を掛けてやることで種類による違いを補正し、「毒性当量(TEQ: ToxicityEquivalency Quantity)」というトータルの値を算出しています。ケイラックス® アッセイではそのTEQ の値が、発光量を見ることで一発でわかるわけです。
ケイラックス® アッセイ法の最大のメリットは迅速に測定でき、測定コストも抑えられることです。HRGC/MS分析は分析用サンプルの前処理が大変で、当社の場合でいうと、結果が出てくるまで1カ月ほど必要です。しかし、ケイラックス® アッセイならサンプルを硫酸シリカと活性炭で処理しただけで使えるので、1週間で結果をお渡しできます。億マスとも呼ばれる程の高価なHRGC/MS分析専用の装置が不要なので初期投資も抑えられ、測定料金はおよそ半額に抑えられます。

デメリットとしては、低濃度の環境大気や水質の場合、ダイオキシン類の測定はできはしますが、分析する試料量を多く必要とし、前処理に時間と労力がかかるために、コストメリットがなくなってしまうという点です。そういった面で、環境大気や水質に含まれるダイオキシン類の環境基準値レベルの測定では、ケイラックス® アッセイを選択するメリットは少ないのです。
やはりよく利用されるのは、焼却炉の排出ガス、燃え殻、煤塵など焼却由来の試料についてです。2005 年に環境省から告示法として認定され、この方法による測定結果を行政に提出できるようになったことが大きなプラス要因でした。

株式会社日吉 技術部分析研究課ダイオキシン係

もう一つ、これはメリットの裏返しになりますが、HRGC/MS 分析ではダイオキシン類の多くの種類(異性体)を一つ一つ判別できるのに対し、ケイラックス® アッセイではダイオキシン類全体の毒性等量をまとめて一気に測れるのですが、種類ごとの量の判別はできません。ダイオキシン類の法的な規制基準としてはトータルの毒性等量のみが定められているので、基準値判定用として使う分には非常に有効ですが、汚染由来や浄化効果などを見るために種類を知る必要性がある場合は、HRGC/MS 分析をお薦めすることになるわけです。

◆多検体を均一に濃縮できる点が導入の決め手に

― 株式会社日吉さんではTurboVap LVを導入するきっかけは何だったのでしょうか。

松田さん :
ダイオキシン類の測定では、前処理の工程でサンプルの溶媒を飛ばして濃縮する必要があるんですが、濃縮処理に時間がかかっていて、悩んでいました。

― サンプルの数が多い場合に、濃縮が律速過程になっていたわけですね。

松田さん :
ええ。濃縮はそれまでは一般的なヒートブロックの装置でやっていたんですが、時間がかかる上に一度に複数のサンプルを濃縮しようとすると、サンプルをセットする場所によって濃縮速度がかなりバラつくので濃縮中ははりついて見ていないといけなかったんですね。
そういうときに上司からTurboVapを紹介されました。
実際に装置を試してみたところ、濃縮速度が速いことと、検体間の濃縮速度のばらつきが少なくて、たくさんの検体を均一に濃縮できるという点が決め手になりました。
TurboVapシリーズの中でLVに決めたのは、濃縮できる検体数が最大で48本と多かったためです。今後、検体数が増える見通しだったので、今使用している試験管でより多くの検体を同時に速く処理できる濃縮機を探していました。

◆処理時間だけでなく使い勝手も向上

― 実際に導入されてみていかがでしたか。

松田さん :
速いですね。これまで1時間かかっていたものが、半分以下の20 ~ 30分になりました。処理時間が短い上に濃縮速度のばらつきが少ないので、ずっと見ている必要がない。これは非常に助かります。

― 一度にたくさん処理できて、しかも速くて手離れがいいというのが、TurboVap LVのセールスポイントなんです。

松田さん :
もう一ついいのは、吹付けする流量を細かく調節できることです。以前の装置はガスボンベのほうのバルブを開け閉めで調節しなければならなくて、正確に調節するのが難しいのです。同じように開いているつもりでも、試験管の本数によって濃縮速度が変わるし、場所によっても変わるし、日毎に変わってしまう。それがTurboVap LVになって安定しました。「これぐらいの流量にしておけば、これぐらいの時間で処理が完了するな」という目安も立てられるので、助かります。
もう一ついいのは、ノズルが固定されていて落ちたりしないのと、サンプル内にノズルを突っ込まないでいいことです。 今までの装置はサンプル管内にノズルを突っ込んで濃縮する形だったので、コンタミネーションが心配でした。それとノズルが固定されていないので落ちやすくて、実際に何度も落としているんです。落とすとはっきり数値が変わるんですよ。そういう心配がなくなったのも、使い勝手という面では大きいですね。

― TurboVap LVをお使いになられて、気になる点やご要望はありますか。

松田さん :
TurboVapはウォーターバスに水が10リットルぐらい入るんですが、うちはもともと水をあまり使わないので、TurboVap用の水の準備が大変です。一度水を入れてしまえば、温まるのはすぐなんですけどね。うちの場合はバイアルも短めなので、ウォーターバスはもっと浅くても大丈夫です。容量が2 ~ 3リットルだと助かるんですが。

― 長さのある試験管も使えるように、という設計なのですが短い試験管しか使わない方にはウォーターバスの水の量は多く感じるかもれませんね。
他にTurboVapに限らず前処理全般に関して、「こういうものがあるといい」というご要望はありますか。

松田さん :
自動抽出や自動精製とか、勝手にサンプルを処理してくれるような、全自動装置があればありがたいですね。ケイラックス®アッセイの工程でも、タイマー方式で勝手にサンプルを暴露してくれる自動装置が欲しかったりします。今は検体数が時期によってまちまちで、一度にたくさん入ってくると、どうしても手が足りなくなります。自動化されてしまえば、検体数を気にせずに一律に処理できるでしょうし、測定コストも安くなるでしょうから。

― 最近は自動化はどの分野でも注目されていますね。
今日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

インタビュー実施:2019年12月
PDFファイルダウンロード(1.2MB)

日吉 技術部分析研究課ダイオキシン係

導入製品

窒素吹付高速パラレル濃縮装置
TurboVap® LV

URL: https://www.biotage.co.jp/TVLV

独自のガスボルテックスシアリング技術により、複数のサンプルのエバポレーションを同時に且つ高速に行う窒素吹付式の濃縮装置です。1.5mLバイアルからφ30x165mmまでの試験管用にデザインされており、試験管の大きさに応じて48サンプルまたは24サンプルまで、同時に濃縮することができます。

利用機関

株式会社日吉

URL: https://www.hiyoshi-es.co.jp

同社は1955年の創業以来「社会立社・技術立社」~会社は社会に貢献しなければ存続できない。またそれを支える技術をもってはじめて社会に貢献できる~との考えを社是とし、早くから地域・国際貢献に力を入れてきました。半世紀に渡る活動を通じ、環境大臣、厚生労働大臣、県知事、各種協会などから140件を超える感謝状と表彰状を賜り、その実績と理念を礎に、環境問題への国境を越えた活動をより一層展開し続けています。
設立:1958年12月23日
資本金:2000万円
従業員:314名(2020年3月現在)