環状糖質シクロデキストリンの
反応実験に Initiator を活用
~ クリック反応で高効率な合成に Initiator が活躍 ~
名古屋工業大学大学院工学研究科生命・応用化学専攻
山村初雄 研究室
名古屋工業大学の山村初雄研究室では、糖質分子(主にシクロデキストリン)を原料に用いた新しい物質の研究開発を行っています。こちらの反応実験ではバイオタージ社のマイクロウェーブ合成装置 Initiator+ および Initiator をご使用いただいています。今回は山村初雄教授にお話をうかがいました。
― まず、先生のご研究内容について改めてご説明いただけますでしょうか。
山村先生 :
私の研究は、有機化合物の合成とその性質の検討がテーマです。何を扱っているかというと、「糖」ですね。天然にある糖を原料に、その置換基を化学的に他のものに換えて、新しい生理活性が出ないかどうかを研究しています。まずそのためにどうやって化学変換するかの方法から考えて、その方法が明らかになれば次は実際に作ってみて化合物がどういう生理活性を示すか、検証するところまでになります。
私たちが最も良く使っている糖は「シクロデキストリン:CyD」というものです。これはバケツのような形をした環状オリゴ糖で、内側はドーナツのような穴があいており、その空間内にその他の分子を結合(包接)することが出来るのが最大の特徴です。既に市販されていて、商品にも使われているものです。一番知られているものは家庭用消臭スプレー(=商品名「ファブリーズ」)ではないでしょうか。糖の構造の中に臭い成分を包接して臭いを封じ込めているわけです。
私たちは、この糖の特徴を活かし、もっと世の中の役に立つ物に変えることができないかを考えていて、そのCyDに付いているヒドロキシ基(OH基)を化学反応によって適切な置換基にどうやって変換するかということを研究しています。
◆抗菌性のある糖をつくりたい
― 具体的に、先生が直近でねらっているテーマなどは、ございますか?
山村先生 :
最近では抗菌物質ですね。抗菌性のある糖を作ろうと思っています。 そこに抗菌性を現す原因となる置換基を入れる、というものです。現代では抗菌ニーズが非常に高いので、そういうものに使える物質を作りたいと思っています。たとえば、置換基の種類や数・位置で性能は違ってくるのです。これらの組み合わせには無限にありますね。逆に私たちがそれらをコントロールすることで、欲しい生理活性の物質を作ることを目指しているわけです。
活性試験については、通常の抗菌試験というか、細菌の増殖阻害試験なら私たちの研究室でも出来ますし、もっと複雑な試験になると、医学部の先生に依頼してやってもらったりしています。
◆狙った官能基の導入を一度に短時間で
実現させる問題=マイクロウェーブで解決
― そういったご研究の中で、弊社のInitiatorを導入されたきっかけというのは?
山村先生 :
はい。私たちが扱う環状オリゴ糖では、OH基は少ないもので18個付いています。この研究で最大の問題なのが、大量のOH基を一度に化学変換させるにはどうすれば良いか、ということです。1つで10分かかる反応が、複数あるから20分、30分と足し算的にかかる…なんて、そんな効率の悪い方法ではなく、10分で一度にたくさんやるにはどうすれば良いか? という効率の良い方法が必要なのです。その方法を調べているうちに行き着いたのが「クリック反応」というやり方でした。
以前から、マイクロウェーブ照射すると反応は効率良く進むといわれていて、クリック反応にも効果的だと複数の研究報告がありました。
私たちは6~8個を一気に反応させたかったのですが、従来法では、全部終わったものと途中で反応が止まってしまったものが混じって、それらを分離するのに苦労しましたね。なかなかうまくいかなかったのです。
ところが、マイクロウェーブ照射を使ったクリック反応だと、一気に短時間で全部反応が完了することがわかったのです。それで、御社の製品を使っているわけですよ。
正直言って難しかったですよ・・・やりたくてもできなかったですね。いろいろな反応がありますが、たくさんのポイントを一度に反応させて原料が全て目的物に変わる、と目的に適したものはなかなか見つかりませんでした。ですが、マイクロウェーブですべて解決できることがわかりました。
― なるほど、そこでマイクロウェーブを導入していただいたのですね。光栄に存じます。1台目の「Initiator」を平成20(2008)年に導入いただいた際は、他社製品もご検討されたのでしょうか?
山村先生 :
当時、一応情報は全部集めました。近くの研究室から他社の製品を借りてきて試しましたが、うまくいきませんでしたね。一番ひどかったのは家庭用電子レンジを持ってきたときです(笑)。オイルバスよりはマシでしたけど、あんまり効果なかったですね。その時、御社からデモがあり、試してみるとすごく良かったですね。
◆非常に良かった、バイオタージでの「クリック反応」
― 「クリック反応がうまくいかない」とは、どういう状態のことでしょうか?
山村先生 :
反応が完了しなかったのです。設定温度も条件も変わらないのに他社製品では反応が進まなかったのです。そして今回(2016年6月)2台目を導入するにあたり、再度、他社製品も検討したのですが、相変わらずうまくいかなかったのです。バイオタージだけがうまくいきましたね。
― なるほど。今回の2台目増設を考えられたのは、1台目を使ってみて反応の効率が良かったから、ということでしょうか?
山村先生 :
そうですね。非常に良いですね。とにかく私の研究室の学生みんなが使うので、さすがに1台だと10分~20分という短時間でも順番待ちも考えられるのです。複数台用意しておけば、学生たちがいつでも好きな時間に、たくさん作ることができますから、1台よりも2台あったほうが良いですよね。それに、1台目もそろそろ年をとって、ときどき壊れてきましたし(笑)。
― なるほど、学生さんがスムーズに研究を進められるように増設されたわけですね。ちなみに1台目(Initiator)と現行機種(Initiator +プラス)は、スペックなどは似ていますが違う機械です。温度による再現性や反応性は近いのでしょうか?
山村先生 :
厳密には比べていないのでわかりません。それぞれの学生がどちらの装置を使っているのか聞いていないので。ただ、今のところ不具合も言ってこないし、特に変化したとも言ってないので、ほぼ同じ結果が得られているのではないかと思っています。
― だいたい何度ぐらいでお使いですか?
山村先生 :
100℃前後です。10分~30分位で反応を終わらせたいのです。最短1分というのもありましたね。120℃ぐらいでしたが、すごく良い結果が出ましたね。通常では反応点が多い大きな分子だと反応のやり残しが出ますが、分子量1万ぐらいで反応点1千個ぐらいの反応でしたがとてもキレイに出ましたね。
― 現在、Initiatorを導入されてクリック反応が進むとのお話ですが、ほぼ100%出来るということでしょうか?
山村先生 :
そういうわけでもないのですけど(笑)。分解反応による原料のロスも当然もあり、精製でのロスもありますからね。ですが反応効率は良いですよ。しかも数分とか長くても30分程度でできますから。
― 1回の合成で必要な量はとれますか?
山村先生 :
うーむ、それはどうでしょうか(笑)。最近、必要な量が増えているようですから・・・。
私たちは1回の合成で無駄に資材を使いませんし、廃棄の問題もあるので必要最小量しか作りません。最初の反応の条件検討や出来上がった生成物の構造決定などでは、おそらく数mg~数十mgしか必要ないのです。ですが性能試験ではそれだけでは足りませんね。場合によっては数百mg以上、またはグラム単位で必要かもしれない。そうなるとたくさん必要です。
― 反応よりも、評価の段階になったからこそ必要になってきたというわけですね。
山村先生 :
そうですね。今では分析機器の性能が良くなって、どんどん少ない量で分析できるようになってきました。私たちが反応の研究だけをしているなら少量でも良いのですが、その後の性能試験までするとなると、たくさん必要なのでスケールアップしてもらった方がありがたいですね。
工学部では、プロセス設計の話が出てきて、ラボから製造現場までどうやってスケールアップしていくか、考えないといけないのです。その部分を、機器メーカーの方々がアレンジしてくれると、開発者としてかなり助かりますね。
― ちなみに溶媒は何をお使いですか?
山村先生 :
DMSOが最近は多いです。だからマイクロウェーブ照射は非常に理想的な条件だと思いますけどね。ただ、クリック反応の場合、銅を入れるので心配だったのですが、何も問題は無かったですね。
私がやっているクリック反応は基本的に「有機アジド」を原料にしているのですが、低分子の有機アジドは爆発性物質であることが多いのです。シャープレス教授(K. B. Sharpless)が言う『大丈夫なアジド』というのがあって、私たちの使うアジドはそれに入っているものです。一応、用心して使っていますが、今のところ何もありません。「金属と有機アジドを混ぜると危ない」と言われていますが、私たちの使う反応条件では大丈夫です。
もっと高温だとわかりませんが…。結局、反応はどこかで危険な領域に行ってしまうので、それを人間がコントロールして、且つそれでも起きてしまう事故をどれだけ防げるかということだと感じます。装置的にはちゃんと安全性を確保されていますし、何も問題はないですね。
◆学生たちに便利な機械のことは教えたい。
方法による違いを理解して効果的に活用してほしい
― 他になにかご要望はございませんか?
山村先生 :
・・・スケールだけだと思いますけどね(笑)。
― ご提案としては、スケールで足りないようでしたら、20mLバイアル数本セットという形ですね。弊社として再現性を保証できるのはこのスケールまでになりますので、これが最善かと。
山村先生 :
そうですよね。本当にすぐに作らなきゃいけない、マニュアルじゃ間に合わないとか、24時間やるとなるとオートサンプラーが必要ですが、まぁ、まだ必要ないかと思っています(笑)。
加熱装置なので、特に夜間に無人ではできれば使いたくないと思っているのです。「早く済むから居る間にやってしまえ!」と言っています。この装置は安全面でも完ぺきに密閉されてガードしているからすごく安心ですね。あれだけ加熱して、もしも爆発されたら困りますからね。そういう面で非常によく考えて作っていますね。
大学は教育機関でもあるので、研究室に1台あると、それを使うことで「世の中にはこんなに素晴らしい機械がある。うまく使えばこんなに効率が良いのだ」ということを学習できるので良いと思っています。通常の加熱との違いもわかりますからね。
名古屋工業大学大学院工学研究科生命・応用化学専攻 山村初雄 研究室
たぶん、まず、学生たちの意識を変えなければいけないと思っています。
クロマトグラフィーなどの単純な分取作業に時間をかけて手で行って、実験している気分になってしまう…。そろそろ自動化もありだと思っています。効率良く作業することを学習して、実験を進めてほしいですね。
― ご興味あればFlash自動精製装置もデモも可能です。
本日は研究内容のご説明およびInitiatorの活用について貴重なご意見を頂きましてありがとうございました。
インタビュー実施:2016年10月
PDFファイルダウンロード(1.5MB)
導入製品
マイクロウェーブ合成装置
『Initiator One』『Initiator+ One』
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/microwave-synthesis-work-up/ini_puls/
シングルモード照射で、パワフルかつ精密に温度を制御します。高温高圧反応による高効率な合成をサポートします。
導入機関
国立大学法人 名古屋工業大学
URL: http://www.nitech.ac.jp/index.html
名古屋工業大学は、明治38年の官立名古屋高等工業学校創設が基礎となり、昭和24年には名古屋工業専門学校と愛知県立工業専門学校が統合されて大学として創立されました。これまで100年余で7万人を超える卒業生を輩出しています。現在は「ものづくり」「ひとづくり」「未来づくり」を教育・研究の基本理念として大学憲章を定め、伝統の上に新たな技術とグローバルで人間性豊かな研究者・技術者育成を実践しています。平成28年度より従来の7学部を新たに5学部の高度工学教育課程に改編するなど、新しい試みが行われています。
山村研究室 URL:http://www.ach.nitech.ac.jp/~organic/yamamura/toppage.html