神奈川県立こども医療センター臨床研究所

スクリーニングで希少疾患を早期発見へ

~ ファブリー病のバイオマーカー抽出に
除タンパク&リン脂質除去プレート「ISOLUTE PLD+」を活用 ~

神奈川県立こども医療センター
神奈川県立こども医療センター

神奈川県立こども医療センターは、子どもの健康を守るため、先天性代謝異常など遺伝的な病気を早期に発見するスクリーニング検査の研究に取り組んでいます。その一環で、このほど横浜市立大学附属病院との共同研究においてファブリー病のスクリーニング検査法を開発し、その分析前処理にバイオタージの除タンパク&リン脂質除去プレート「ISOLUTE PLD+」が使用されました。今回は、実際に測定系を立ち上げて分析されている臨床研究所の岩野麗子先生にお話をうかがいました。

― まず、神奈川県立こども医療センターの概要を教えてください。

岩野先生 :
神奈川県立こども医療センターは、昭和45年に開設された小児専門病院で、病気や障害のある子どもたちに医療と福祉を一体として提供する総合医療・福祉施設です。専門化された施設として、「小児がんセンター」や「メディカルゲノムセンター」などが設置されていることも特徴です。メディカルゲノムセンターは昨年できたばかりで、ゲノム情報をどのように診療に役立てるか、集中的に取り組みを進めています。私の仕事との関連では、新生児マススクリーニングといいまして、出産後に新生児の先天性代謝異常などの疾患やその疑いを早期に発見し、発病する前から治療ができるようにすることを目的とした検査が挙げられます。新生児マススクリーニングは全国的に行われていまして、神奈川県内で先天性代謝異常が疑われた患者さんは当院に来院されることが多いです。

◆ファブリー病のバイオマーカーを定量、500検体を処理

神奈川県立こども医療センター
岩野麗子先生

― 先生自身のお仕事について、さらに詳しくご説明いただけますか。

岩野先生 :
私の仕事のメインは臨床研究で、診療現場からの測定依頼に応じてLC-MS/MSなどを用いる高感度な測定系の立ち上げを主に行っています。その新しい測定系で実際に検体を測定し、結果を依頼元に返すまでが私の仕事です。とくに、新生児マススクリーニングに関連して、アミノ酸とカルニチンの測定を行っていますが、当院では血清を検体として非常に正確な値を出す測定系を立ち上げていることが特徴です。メープルシロップ病の患者さんで特異的に検出されるアロイソロイシンをカラムで分離して定量していますが、これに関しては、治療後のフォローアップもできる高感度な測定系となっています。つまり、服薬後の血中アロイソロイシンの濃度変化を調べ、治療方針に役立てていただくということです。最近は、髄液中のアスパラギンとアスパラギン酸を測定する仕事もありました。髄液中のアスパラギンとアスパラギン酸の有無の測定は、白血病患者さんで治療抵抗性の方の治療方針を決める際に役立ちます。今回バイオタージさんのISOLUTE PLD+を使用した事例は、ファブリー病のバイオマーカーを定量する仕事ですね。

― あまり聞き慣れない病気ですね。ファブリー病とはどのような病気なのでしょうか。

岩野先生 :
発症頻度が少ない希少疾患で、厚生労働省から難病に指定されています。ファブリー病も先天性代謝異常の一つで、特定の酵素が欠損しているために生じる病気です。グロボトリアオシルセラミド(Gb3)などの糖脂質が分解されずに四肢の末端などに蓄積することで、全身にさまざまな症状を来します。早期に治療を開始することが重要で、しかも継続的に治療を行わなければなりません。ファブリー病のバイオマーカーが、リゾグロボトリアオシルセラミド(Lyso-Gb3)と呼ばれるものでして、これを測定する系を横浜市立大学附属病院との共同研究で確立しました。横浜市立大学附属病院から心肥大の患者さんを対象にスクリーニングというかたちで集めた検体を分析しました。これまでに500検体を調べた結果、女性の患者さんが1名見つかりました。今回のスクリーニングは、20歳以上で左室肥大の患者さんから採取した検体を用いています。

◆目的物質をいかに取り出すかが問題、前処理は簡単にしたい

― 子どもさんではなく、成人なのですね。

岩野先生 :
そうなんです。ファブリー病の場合、子どもの患者はなかなか見つからないですね。当院にも子どもの患者さんはいません。小さいころは原因不明で、大きくならないと診断がつかないことが多いのです。これも遺伝性の病気で、なるべく早い時期に発見されることが望ましいですから、スクリーニングで見つかるようになれば良いと思います。

― わかりました。検体からLyso-Gb3を検出するための前処理に、ISOLUTE PLD+をご使用いただいたということですね。今回、ご採用いただくまでにどのような経緯があったのでしょうか。

岩野先生 :
いちばん重要なことは検体からいかに目的物質を取り出すかです。とくに、スクリーニングでは検体数が多いので、できるだけ簡単に前処理をしたいところです。それで、最初はメタノールのみを使って除タンパクを試みたのですが、LC-MS/MSの分析用カラムを詰まらせてしまって、別の方法に変えなければならなくなり、いろいろと調べました。文献では固相抽出で前処理する例が多いようなのですが、固相抽出は操作のステップが多くてロスもあるので多検体処理には向いていないと思いました。そうしたとき、昨年ある展示会で、バイオタージさんの製品がステロイド分析の前処理に使われているアプリケーション資料を見つけました。実は、そのとき初めてバイオタージさんのことを知ったのですが、ホームページを拝見すると、ISOLUTE PLD+が紹介されていてタンパク質とリン脂質が除去できるということで、これは試してみる価値があるなと思いました。実際に、メタノールによる除タンパク処理とISOLUTE PLD+とで比較したところ、ISOLUTE PLD+の方がきれいなピークが出ました。とくに今回の場合、内部標準物質が特殊な化学構造をしていてイオン交換系の固相抽出ですと保持されずに流出してしまうため、イオン交換系ではないタイプで前処理をしなければならないという事情もありました。

神奈川県立こども医療センター

◆操作が非常に簡単、簡単なのにきれいにピークが得られる

― そうですか。良い出会いに感謝します。ところで、実際にISOLUTE PLD+をお使いになって感じたメリットはどのような点でしょうか。

岩野先生 :
そうですね。とにかく操作が非常に楽です。そして、楽なのにピークがきれいに出るということですね。先に検討したメタノールによる除タンパク処理では、健常者の検体からはLyso-Gb3は出ていないのですが、ISOLUTE PLD+で前処理するとかなり低い値ではあるのですが、健常者の検体からでも数値としてはっきりとあらわれます。メタノール処理ではノイズに埋もれてピークとして認識されなかったということだと思います。

― それはありがとうございます。スクリーニングの方は、すでに500検体を処理されて、お仕事はこれでひと段落なのですか。

神奈川県立こども医療センター岩野先生 :
いいえ。まだ別の500検体が残っています。また、2回目の測定もしたいという話も出ていますので、さらに1年くらいはこの仕事にかかわることになりそうです。アプリケーション資料で見つけたステロイド関係も今後取り組みたいと思っていますし、臨床現場からの要望にはさまざまなバリエーションがあります。何を分析するにしろ必ず前処理は必要ですから、これからはバイオタージ製品も選択肢に必ず入れさせていただきたいと思っています。

― ありがとうございます。私どもとしても、アプリケーションノートをさらに充実させてお役に立ちたいと考えています。最後に、不都合な点やご要望などはございますか。

岩野先生 :
ISOLUTE PLD+はちょっと溶出量が多いのが悩みなんです。検体の量が100μLで、そこに溶媒を加えるので溶出量が400μLくらいになってしまい、乾固させるのにものすごく時間がかかります。検体量を減らせればよいのですが、なかなか感度が出ないのが悩みです。96ウェルプレート用の濃縮装置で良いものがあればいいのですが、バイオタージさんの製品で解決策がありますか。

神奈川県立こども医療センター― 良い製品がありますので、別途ご紹介させていただきます。本日はありがとうございました。

インタビュー実施:2016年12月
PDFファイルダウンロード(1.8MB)

導入製品

除タンパク&リン脂質除去プレート
ISOLUTE® PLD+

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/sample-preparation-products/isolute_pld/

効果的な除タンパクとリン脂質除去を簡単に行える、 LC-MS/MS 分析のためのサンプル前処理製品です。シンプルなタンパク凝固と濾過法を組み合わせた前処理製 品で、血漿などの血液由来サンプルからタンパク質とリン脂質を同時に除去することができ、ターゲット化合物を再現性よく、高回収率で精製することができます。イオンサプレッションの主な原因となるリン脂質を 99% 以上除去するため、分析に適したクリーンなターゲット化合物を得ることができ、その結果、より低い検出下限値が期待できます。

導入機関

神奈川県立こども医療センター

URL: http://kcmc.kanagawa-pho.jp/

神奈川県立こども医療センターは、こども専門病院および障害児入所施設からなり、総合医療・福祉施設として、各専門診療科、医療技術部門、看護局、施設が相互に連携してチーム医療を行うとともに、子どもの発達に則した包括医療、高度医療を提供しています。病院には、ICU病棟、ハイケア・救急病棟、クリーン病棟、こころの診療病棟など10の小児病棟と、新生児病棟、母性病棟の合わせて12の病棟があります。これまでの取り組みが評価され、2013年2月に、全国15機関が指定された「小児がん拠点病院」の1つとなりました。

設 立:1970年4月
病床数:病院(329床)、障害児入所施設(90床)
電 話:045-711-2351(代)