膜透過性分子をはじめとする PNA の高機能化を目指して!
~高機能化 PNA 合成にペプチド合成装置「Initiator+ Alstra」、
フラッシュ自動精製装置「Isolera Spektra」を活用~
東京家政大学家政学部環境教育学科 生物有機化学研究室
東京家政大学家政学部環境教育学科 生物有機化学研究室 池田研究室では、PNA 合成技術を用いて生物機能を模倣した機能性分子をデザインし、「環境」「医療」分野への貢献を目指しています。膜透過性分子をはじめとする高機能化PNA合成を行なう際に、Initiator+ Alstra と Isolera Spektra をご活用いただいています。今回は、池田壽文准教授にお話しをうかがいました。
─ まず、先生の研究内容について教えてください。
池田先生 :
私たちの研究では、有機合成化学を用いてバイオテクノロジー分野の研究を行っています。バイオテクノロジー分野の有機合成側の研究、というイメージでしょうか。
具体的にいえば、有機合成化学の中でも核酸化学やペプチド化学という分野です。例えば遺伝子を改変し、より良く分子認識できるようなデザインにしたり、合成したりしています。1995年頃、コペンハーゲン大学教授のピーター・ニールセン博士が、人工機能核酸であるペプチド核酸「PNA」を新しくデザインしました。それが非常に高い分子認識能力を持っているだけでなく、体の中で代謝されないということが発見されました。当時は画期的な出来事だったのですが、高機能化する技術がありませんでした。そこで私たちの研究ではこのPNAを高機能化する技術の開発に取り組んできました。
私たちの行った高機能化技術は、PNAを使って一定の条件下で電気が流れたり、蛍光を持たせたりと、バイオテクノロジーに必要なツールを開発し、そのために必要な化合物を全て創り出すところから行いました。
そうした高機能化の根幹となる技術を私たちは開発することができたため、様々なバイオテクノロジーの分野に向けてデザインして供給していくことも行っています。この技術を色々な分野へ応用することができるのです。そのひとつに膜透過の機能性分子の開発があります。
─ 幅広い研究をされておられるのですね。膜透過ができるとどのように活用できるのでしょうか?
池田先生 :
私たちの開発した膜透過性分子DOPE-PR35は生体膜をすっと通り抜けて細胞内に入り、しかも通り抜けた細胞が死なないという性質をもった分子です。細胞膜は、余計なものは通しませんよというバリアのようになっており、膜透過して中に異物を入れさせないような仕組みになっています。もし膜を透過して細胞内に何か入ると細胞が死んでしまうのです。そのため細胞内に何か入れたい場合には色々細胞に処理をしたり、注射しなければなりません。細胞を生きたまま膜透過ができることはとても画期的なことなんです。
膜透過機能性分子は、シンプルなだけにとても汎用性があります。PNAにもつけられますし、高機能化のパーツだけで膜を透過することができます。例えば酵素といったかなり大きなサイズのものと結合しても、同様に細胞は死なせずに酵素と結合したまま膜透過させることができるという結果が出ています。この機能を応用することで、細胞の中に入りさらにライソゾーム(リソソーム)という所に到達することで、先天性代謝異常疾患であるライソゾーム病の酵素補充療法に対応した創薬支援ができると考えています。この膜透過技術を使ってライソゾーム病薬につなげていくことが、私たちの研究の1つの柱です。
◆Initiator+ Alstraはスマホ世代には使いやすい!
─ こうしたご研究の中、2015年にペプチド自動合成装置Initiator+ Alstraを導入していただいたのですが、その経緯を教えてください。
池田先生 :
装置の導入前は、手作業で合成を行っていたのですが、合成中ずっと付きっきりじゃないとないのが難点でした。また、合成する化合物はカップリング数でいうと15くらい、分子量3500くらいですので、1つミスがあったら時間も試薬もムダになり、大変なことになります。
特に私たちの大学は女子大のため、規則で午後10時以降には学内にいることができません。全員帰宅しなければならず、夜遅くまで実験ができる環境ではありません。私たちは当たり前にやっていたマニュアル合成ですが、それにこだわっていると全く合成ができなくなってしまいます。
研究内容も進展していき、分子のパーツをデザイン/合成することが重要な段階になっていきました。教育という面もあって1から教えていたのですが、研究スタイルが発展しパーツを繋げていく部分がメインでなくなってきた、というのもありました。そのためパーツを組立てる部分は自動化していきたいな、と考え導入を検討することにしました。
先ほどお話ししたような状況ですので、時間短縮は不可欠だな、と思いマイクロウェーブ合成装置がほしいと考えました。色々情報収集している中、バイオタージさんが扱っていると知りました。電話で問合せた際に関西弁の方が対応してくれたことも印象に残っています。私は京都大学にいたものですから、 なんだか親しみを感じました(笑)。結局、バイオタージさんと他社さんの製品のデモ機を借りたのですが、Initiator+Alstraの使い勝手が良かったですね。
― どのような点に他社製品との違いを感じたのでしょうか?
池田先生 :
他社の技術営業さんも丁寧に対応してくれたのですが、装置の方がそこまで追い付いていない印象でした。汎用性がないかなと。私たちはアミノ酸だけでなく、塩基を修飾したアミノ酸をメインに使っていることもあり、セットの仕方が感覚的に使いづらかったです。一般的なペプチド合成には良いのかもしれませんが、私たちが使うことがイメージできませんでした。
一方、Initiator+ Alstraは操作性が全く違いました。アミノ酸以外のものもセットしやすく、臨機応変に変更ができました。あのソフトウェアは強みですね。画面も大型タッチスクリーンがあって、操作が楽でした。自分で合成する化合物を画面上でもイメージでき、その ためヒューマンエラーがない。学生もすぐ覚えられました。きっとソフトウェアがスマホ感覚で使えたのも良かったのでしょうね。1回教えたら、2回目からは自分達でささっとできていますね。本当に楽です。
◆10日かかっていたものが2日で。世界が変わった!!
─ お役に立てて光栄です。現在、どのくらいの頻度で使っていただいていますか?
池田先生 :
ほどんと毎日です。学生は20人ほどいるのですが、取り合いになっています。何本も走っています。もう一台ほしいところなんですがなかなか……(笑)。
─ 通常のユーザーさんだと、月のうち4分の1くらいは合成装置を使い、他の期間は評価にまわってしまうのですが……。毎日とはすごいですね。
池田先生 :
何せ10時には帰らせないといけませんので(笑)。今は夜セットして翌朝来ると配列ができています。10日かかっていたものが2日になりました。研究の効率はすごく上がっていて、これまでとの違いを実感しています。世界が変わりましたね。
◆Isolera Spektraで丸一日かかっていたものが30分で精製
─ その後、フラッシュ自動精製装置Isolera Spektraを導入していただきました。こちらも経緯を教えていただけますか?
池田先生 :
バイオタージ製品の信頼性ですね。ペプチド合成装置の技術営業さんも困った際はすぐ解決してくれましたし、アフターケアも充実していました。精製装置は、他社は検討しませんでした(笑)。
─ 弊社としては大変ありがたいです。実際、使われてみていかがですか?
池田先生 :
随分昔に精製に他社の中圧分取液体クロマトグラフを使っていました。それはそれで使い勝手も効率もよかったのですが、IsoleraSpektraは全く違うので驚きました(笑)。カートリッジが進化しているだけと思っていたのですが、それ以上に精製スピードがとても速いですね。これまでオープンカラムだとゆっくり流して丸一日かかっていたものが、30分で出来ます。溶媒の消費量も少なくてすみますし。精度、技術が全く違うのです。
学生の作業効率も格段にアップしました。30分付きっきりで見ていてもいいのですが、見ていなくても他の実験ができます。また、同じ結果ででき、精製で研究スピードを落とさずに進めることができます。最近は、溶媒を廃棄するのに規制があって大変なのですが、溶媒量が格段に減ったのは本当に助かっています。
― 再現性が良いのもフラッシュ自動精製装置の良い点ですよね。
池田先生 :
そうなんです。また、10グラムのシリカゲルが入っているカートリッジを使ってきれいに分かれたサンプルを、そこからスケールアップして100グラムのカートリッジで大量に精製しました。それでも精製結果がほとんど変わらないのです。こうした作業は、オープンカラムではできないことですよね。
― 高性能のカートリッジSNAP Ultraもお役に立てているようですね。
池田先生 :
はい、あのカートリッジはレベルが高いですね。分けにくいが、どうしても分けたい化合物がきちんと分かれてくれます。また、例えば分けたい化合物でもフラクション1、2本で出てきて、その次のフラクションではきちんと別の化合物が出てきます。オープンカラムですと、どうしてもダラダラ出てきてしまい、1化合物が4,5本にまたがって出てきたりします。特に分かれにくい場合は、移動相 の溶媒極性を緩やかにしか変えられないので複数のフラクションにまたがってしまうのが当たり前でした。そういう意味でもあのカートリッジと装置にはびっくりしましたね。
◆排気対策でプラスアルファがあればなお良い
─ 問題点は何か御座いませんでしょうか?
池田先生 :
基本的にはあまりないですね。どちらの装置も初めての学生でもすぐに使えていますし、使いにくいといった話も上がってきていません。故障もないし、おかしいと言えば、すぐに対応していただいています。
あえて言うなら精製装置の排気の問題でしょうか。私たちの研究室では、排気対策に精製装置をドラフトの中に入れています。排気を気にせず使えるように箱型になってダクトが付けられたりすりと、装置が実験台の上に置けドラフトをもう少し広く使えますよね。大学などは排気の規定などが厳しいので、排気対策のプラスアルファがあればいいですね。
─ 今後は使いやすさの他にもそのような点も含めて開発が必要ですね。貴重なご意見ありがとうございました。本日は長時間、誠に有難う御座いました。
インタビュー実施:2016年1月
PDFファイルダウンロード(2MB)
導入製品
全自動マイクロウェーブペプチド合成装置
Initiator+ Alstra
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/peptide-synthesis-purification/initiator_alstra/
マイクロウェーブによるペプチド合成を全自動で行うことができま す。温度制御に優れたマイクロウェーブ照射により、従来の方法では困難だった配列のペプチド合成もセッティングに時間をかけず、より効率的に合成することが可能です。
フラッシュ自動精製装置
Isolera Spektra
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/isolera_top/
精製に対するケミストの要望を最大限取り入れた、コンパクトな 最新のフラッシュ自動精製システムです。
導入機関
東京家政大学
1881(明治14)年、渡邉辰五郎が本郷湯島の自宅に「女性に技 を身につけ、その技を通して社会的自立を計り、時代の動向を見通していく創造性に富む女性を育てる」ことを目的として裁縫私塾「和洋裁縫伝習所」を開設しました。1945(昭和20)年の東京大空襲で校舎施設焼失し、現在の板橋キャンパス所在地へ移転。49(同24)年、「東京家政大学(家政学部生活科学科児童栄養専攻、同 被服専攻)」となりました。現在、短期大学部のほか、家政学部、人文学部、看護学部、子ども学部の4学部、人間生活学総合研究科の大学院があります。