限られた時間を機能解明へ費やしたい

~デンドリマーを基盤とした新機能材料研究にバイオタージ製品を活用~

東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門
東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門

東京工業大学 資源化学研究所の山元・今岡研究室では、デンドリマーを基盤とした精密デザイン分子の様々 な機能材料創製を展開しています。その中でデンドリマー合成のスピードアップにバイオタージの Isolera Spektra と Initiator+ をご活用いただいています。今回はアルブレヒト建助教にお話をうかがいました。

─ まず、山元・今岡研究室でのご研究内容について教えてください。

アルブレヒト先生 :
私たちの研究室ではデンドリマーをベースにした研究を行っています。デンドリマーとは、樹状の高分子で、中心から規則的に分枝した構造を持っています。通常の高分子は合成する際に分子構造や分子量の分布が広くなってしまい精密にデザインすることが難しいのですが、デンドリマーは精密にデザインできるのが特徴です。金属イオンなどが規則正 しく錯体形成された分子を設計することもデンドリマーでは可能です。その点に注目し、金属元素の原子数や組成を自由にデザインし、今まで制御が難しかった機能を持った物質や新素材開発の研究を行っています。研究室では新しいデンドリマーの設計から合成、その機能の評価や解明まで幅広く取り組んでいます。

デンドリマーは幅広い可能性を持った高分子ですが、特に私たちの研究しているデンドリマーには大きく二つの特徴があります。一つは骨格がπ共役分子で構成しており、非常に硬く潰れにくい構造になっています 。これによって分子の内部には十分な広さの空間が確保されます。計算では約4分の3は空間であることが分かっています。もう一つは金属イオンと錯体をつくる配位サイトを多数有していることです。この二つが合わさることで、今までにはない現象を観測することができまし た。

東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門またさらに、そのデンドリマーをテンプレートとして『ナノ粒子』を作る研究にも取り 組んでいます。金属をナノ粒子化するとバルク状態よりも優れた物性を示したり新しい機能を発現したりするという報告がいくつかなされています。

ナノ粒子は従来のバルク材料よりも表面積が増えるため、金属の利用効率が上がることが期待できますし、原子数個から数十個という「クラスター」と呼ばれるサイズ領域になるとバルクとは全く違った物質となるためです。しかし、小さくすることで凝集しやすくなり、サイズの制御が困難であるという問題が有りました。

東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門
東京工業大学 資源化学研究所
無機機能化学部門
アルブレヒト 建 助教

そこで、私達の研究しているデンドリマーを鋳型としてナノ粒子を作製した所、原子数レベルでサイズの制御され高い触媒活性を有する粒子を作製できることが分かりました。

2016年度から『ERATO 山元アトムハイブリッドプロジェクト』が発足し、ナノ粒子化研究がさらに発展していく予定です。シンプルなナノ粒子研究というよりは、異種金属を混合しかつ精密に制御された物質を研究していこうというものです。

ここでも、あくまでテンプレートとしてデンドリマーを用いて、有機、無機、金属の種類などにとらわれない、これまでにない新物質を開拓していきたいと思っています。特に基礎的な物性解明を軸として、工業的に重要な反応や燃料電池触媒の実用可に向けて重要な知見を得られればと考えています。

◆確立された合成部分に時間をかけたくない!

─ こうした研究の中で、どのような部分に弊社製品をご活用いただいているのでしょうか?

アルブレヒト先生 :
デンドリマーやナノ粒子を合成しその物理的性質を調べているのですが、 デンドリマー自体は合成方法がある程度確立されています。鎖状高分子は、重合で一気に作りますが、デンドリマーは樹状の一世代ずつをひとつひとつ段階的に合成をします。結合させた化合物の先に、また別の化合物を結合させていく、という形ですね。その合成段階がだいたい7ステップくらいあり、もちろん 毎回カラムでの精製をする必要があります。 学生さんが研究室に来たらまず1ヶ月か2ヶ月くらい掛けて作 ってもらいますね(笑)。

合成されたデンドリマー自体の評価やどのようなデンドリマーを合成するかが重要な部分ですので、既に確立されている合成部分に手間はかけたくないなと思っていました。少しでもスピードアップさせる手段として自動精製装置の導入を考え、予算を獲得しました。

◆トルエンが使えたのが決め手!
研究者の評価も高い Isolera Spektra

─ 自動精製装置をバイオタージのIsolera Spektraに決めたのは、どういった点が良かったからなのでし ょうか?

東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門
実際にお使いいただいている
Isolera Spektra

アルブレヒト先生 :
導入する際、他社も含めていろいろ検討はしました。バイオタージのIsoleraを知ったきっかけはChem-Station(日本最大の化学ポータルサイト )でした。Chem-Stationに Isoleraが載っていたというのが印象に残っていましたね。実際に導入する際にバイオタージに問合わせて、もちろん営業の方にも来て頂いて説明もして頂きました。

この研究棟の他の研究室でIsoleraを導入しているところがあり、そこでも実際に装置を見せてもらいました。装置の評判も良かったですし、実際に使いやすそうだなと思いました。見た目もよかったですし ね。

最終的には、トルエンを使えるのがポイントになりIsolera Spektraに決めました。この研究の特徴かもしれませんが、トルエンを良く使いますので、 移動相にトルエンが使えることはとても重要で した。 普通の装置ではトルエンで流すとトルエンのUV吸収に埋まってしまいますよね。移動相の溶媒の比率を変更しても、サンプルのUV吸収に影響がないのは良いですね。

─ Spektra(オプション)特有の機能がお役に立てて、とても嬉しいです。

アルブレヒト先生 :
またMS検出オプションのアップグレードできるという点も良かったです。私の上司の先生も、拡張性を重視していることもあって、拡張性の高いIsolera Spektraにしました。将来的に必要であれば、 追加することができますから。

─ アップグレードできる点は弊社ラインナップの特長でもあるので、その点も評価いただけて嬉しいです。導入する前 はオープンカラム(マニュアルカラム)で精製をしていたのでしょうか?

アルブレヒト先生 :
そうですね、ほとんどオープンカラムを使っていました。精製装置を学生に使わせるのはいかがなものか、というのはありましたね。ですので、今も全員が精製装置を使っているわけではありません。ある程度合成の経験がある人などに使ってもらっています。

─ 導入後、研究への変化はありましたでしょうか?

東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門アルブレヒト先生 :
精製に対するハードルが低くなり、その分研究が次の工程に進みやすくな りました。特にスケールが上がった場合でも時間を掛けずに精製できるようになりました。10g近くある場合、オープンカラムでもできますが 、大き なカラムを使う必要があったりして大変でした。Isolera Spektraで10g精製する場合、パックドカラム(SNAP Ultra)100gサイズを使って分けることができます。原料合成などではスケールが大きくなる のですが、その場合でもそんなにためら わずにできるようになりましたね。

─ 大きなオープンカラムでの精製は、本当に大変ですよね。

アルブレヒト先生 :
また、確実に分取できるのも精製装置の良さだと思います。装置では精密なグラジエントがかけられますが、オープンカラムでは段階的 にしか違う比率の溶媒を流せませんから。さらに一度精製できたグラジエント メソッド を使えば、同じ化合物を精製する場合には間違い なく精製することができるのもメリットです。わかれづらいもののグラジエントメソッドを見つけるのも大変ですが、それをもう一度繰り返すことも精 神的に大変です( 笑)。分かりき った部分に時間をかけずに済むのが良いですよね。精製部分で止まっていられませんので!

◆96時間合成→マイクロウェーブで2時間に短縮!

─ その後、マイクロウェーブ合成装置Initiator+を導入いただきました。こちらの経緯も教えていただけます か?

アルブレヒト先生 :
私たちは今までオイルバスを使っていましたが、文献を見たりしてマイクロウェーブを使った合成の有用性を感じていました。合成が早くなるんだろうな、デンドリマー合成にもマイクロウェーブが活用できるだろうな、いつかはマイクロウェーブで合成したいな、という考えがありました。

大阪大学産業科学研究所の家先生が「Initiatorはいいよ。特別な反応だけでなく、普通の反応でもきちんと合成できる。」と仰っていました。先生のご意見も参考になりましたね。Isoleraを 導入したくらいの時期に、研究会でInitiator+が展示されていたのを見たのですが、それも脳裏に残っていました。実際の装置の使いやすさなども展示のときに見て、充分な機能があるなと思っていました。

幸いにして予算を獲得することが出来ましたのでマイクロウェーブを導入しようと思い、研究会の時の装置の印象と、精製装置を導入していたこともあり既にサポート面など信頼できていましたのでバイオタージにお声を かけました。

◆研究全体の効率化、時間の有効活用を装置がサポート

─ 実際にInitiator+を導入していかがでしょうか?

東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門
実際にお使いいただいている
Initiator+

アルブレヒト先生 :
ナノ粒子用のデンドリマーと有機EL材料用のデンドリマーを合成しているのですが、特に有機ELのものは熱に強いためマイクロウェーブを使って合成することが多いです。デンドリマーは樹状構造のために立体障害が大きく、合成ルートの終盤になってくると反応に時間がかかることがあります。その反応が遅い部分にマイクロウェーブを使うことで、反応時間が短縮することができまし た。

─ 具体的に反応はどのくらい速くなったのでしょうか?

アルブレヒト先生 :
96時間掛かっていた反応が、最短で2時間で合成できました。その他の反応でも、今まではオーバーナイト(終夜反応)掛かっていたものが、数時間や数十分で合成できます。

東京工業大学 資源化学研究所 無機機能化学部門合成実験全体でみても、以前はオーバーナイト合成し、反応だけでなく 精製も下手すると半日掛かっていました。それが今は朝、反応をInitiator+で 1時間かけて、午後にIsolera Spektraで精製し、夕方には同定できてしまいます。1日で反応全体が終わるのです。

私は今でも自分で実験をしているのですが、授業の準備や他の業務など もありますので、以前は数日単位で時間の都合をつけて合成を行なっていました。今では1日だけ空いている日があればパッと合成でき ます。

1日単位でなくても、夜に数時間あいていれば、1、2時間で反応がかけられます。数時間だけでもみつけて、反応に取り掛かることが できるのです。時間が短くなった分、実験のハードルが低くなりました。また、 精製の最中もずっと掛かりっきりで精製していた時間を、 Isolera Spektraを使うことで他の業務に当てることができますね。

◆より『確実に分離ができる』方が重要

─ ご研究に貢献できており、とても光栄です。逆に、問題点やご要望などはございますか?

アルブレヒト先生 :
Isolera Spektraに関しては、スピードもどんどん速くなっていますよね。確かに速さは大切なんですが、今以上早いことは求めすぎずに確実に分かれる方が私たちにとってはありがたいですね。今で充 分速くて助かっていますので(笑)。これは装置よりカラムの性能かもしれませんが、今分かれないようなピークがより確実にできるカラムと装置をぜひ開発して頂きたいです。

また、この大学の問題かもしれませんが、バック ドカラムの廃棄が大変です。シリカゲルと容器のプラスチック部分を分別して廃棄しなければいけないのですが、分解するのが大変で・・・。今はドライバーで刺して、分解しています( 笑)。もっと簡単にできるといいですね 。頑丈さと相反する部分で難しいとは思いますが。

─ より分離能の高いカラムや分別も考えたカラムの開発が必要ですね、検討させていただきます。 Initiator+についてはいかがでし ょうか?

アルブレヒト先生 :
やはりボリュームがもっと大きくなることでしょうか。マイクロウェーブでは良く言われていることだとは思いますが・・・。100mLまであればいいですね。

最初にお話しした「ERATO 山元アトムハイブリッドプロジェクト」が始まりますが、そこでもデンドリマー大量に作る必要があり、 Initiator+をフル活用していくと思います。精製も大量に精製できる 『Isolera LS』を導入しますので、こちらもフル稼働 してくれることを期待しています。私たちの研究にとってよりよい製品が今後も開発されるとありがたいですね。

─ 弊社もご期待に添えるよう今後も努力させていただきます。本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました。

インタビュー実施:2016年1月
PDFファイルダウンロード(2MB)

導入製品

フラッシュ自動精製装置
Isolera Spektra

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/isolera_spektra/

精製に対するケミストの要望を 最大 限取り入れた、コンパクトなフラッシュ自動精製システムで す。Spektra(オプション)では、全波長スペクトルスキャンにより、ベースライン補正ができるだけでなく、より化合 物認 知を確実に行 い、取りこぼしなく化合物 を回収します。

 

マイクロウェーブ合成装置
Initiator+

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/microwave-synthesis-work-up/ini_puls/

400Wのシングルモード照射で、パワフルかつ精密に温度 制御可能なマイクロウェーブ合成装置です。操作性・安定性に優れ、多くの研究機関で活躍しています。

導入機関

国立大学法人 東京工業大学

URL: http://www.titech.ac.jp/

1881(明治14)年、浅草蔵前の地に東京職工学校として設立、機械工芸科と化学工芸科の2科で開始されました。1923(大正12)年、関東大震災でキャンパスが焼失し、翌年、現在の大岡山に移転 し、1929(昭和4)年「東京工業大学」となりま した。現在は、大学には学部23 学科、大学院には6研究科45 専攻が設置されています。大岡山、すずかけ台、 田町の3つのキャンパスに学部生約5,000人、大学院生約5,000人の計約10,000人の学生が学び、うち、約1200名が海外からの留学生が在籍しています。