ガラス繊維強化プラスチックを
マイクロウェーブ加熱分解
~Initiator+ Eight 活用で分解効率が大幅改善~
崇城大学工学部ナノサイエンス学科 池永研究室
崇城大学工学部ナノサイエンス学科池永研究室では、資源の再利用を目的とした廃プラスチックのリサイクル研究を行っています。中でも、再利用が極めて難しいガラス繊維強化プラスチック(GFRP)のマイクロ波分解研究にバイオタージのマイクロウェーブ合成装置「Initiator+ Eight」をご活用いただいています。
今回はナノサイエンス学科の池永和敏准教授にお話をうかがいました。
─ 最初に、ご研究内容について教えてください。
池永先生 :
私たちの研究室では、「地球資源の有効活用」を目指した研究を行っています。資源の再利用、特にプラスチックの再利用ですね。PET[poly(ethylene terephthalate)]の分解・再利用研究から始まり、現在では特に“ガラス繊維強化プラスチック”の樹脂部分の分解と再利用について研究しています。
10年程前からマイクロ波加熱を用いたPETの分解法の研究しており、研究を重ねた結果実用化できるほどの開発成果も得られ、いくつかの特許も取得しています。ガラス繊維強化プラスチックというのはPETの化学構造と似ているため、PETでのマイクロ波加熱分解法をガラス繊維強化プラスチックに応用しようと取り組んでいます。
◆樹脂分解にはマイクロウェーブ!既存法より大幅な成果
─ プラスチックの分解とはとてもおもしろいですね。現在ご研究されているガラス繊維強化プラスチックとは、どういうものなのでしょうか?
池永先生 :
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)というのは、三次元の網目状樹脂の中にガラス繊維が絡んだ構造をしています。単一のガラス繊維や樹脂素材より高硬度・高耐候性の性質を持っているため、ボートや浴槽、ヘルメット、建築材料の補強材料などに入っており、私たちの生活の様々な場面で使用されています。ガラス繊維と樹脂が強固に絡んでいる分、化学分解・再利用が極めて難しいため、簡単には再生利用することができませんでした。
このGFRPの樹脂部分の分解に関する研究は1990年代後半頃から報告され始め、高温高圧の超臨界・亜臨界反応、長時間の常圧溶解法などがありました。しかし超臨界状態が必要だったり、触媒添加かつ12時間以上の長時間攪拌が必要だったりと、条件が簡単ではありませんでした。
先ほどお話ししたとおり、私たちはPETの分解で用いたマイクロウェーブによる方法をGFRPにも応用させたところ、GFRPを無触媒かつ3時間で分解することに成功しました。今までの常圧溶解法でも触媒添加かつ12時間程度必要だったため、マイクロウェーブを用いることで大幅な時間短縮が行えるようになったのです。
─ 先生はPET分解のご研究の頃から様々なマイクロウェーブ合成装置をお使いだったとお聞きしましたが、バイオタージのInitiator+Eightの導入しようと思ったきっかけを教えてください。
池永先生 :
Initiator+ Eight導入以前に、既に5台のマイクロウェーブ合成装置を使っていました。
初めて装置を導入したのは約10年程前ですね。昔はどの装置もマイクロウェーブ照射はマルチモードのみでしたが、時代と共にシングルモードが出てきたり、温度制御の性能が良くなったりと、より研究しやすくなりましたね。
世の中には“マイクロウェーブ合成装置”はありますが、“マイクロウェーブ分解装置”はありませんので、私たちは“マイクロウェーブ合成装置”を使って分解反応の実験をするしかありません。分解実験は急激な加圧状態を伴うため、時には圧力異常による反応容器の破裂も起こりえます。装置の中で反応容器が破裂した場合、装置の洗浄に非常に手間が掛かかっていました。
時にはこちらでは復帰させることが難しく、装置をメーカーに送って復帰してもらうこともありました。そういった時間は実験の時間ロスになり、ちょっと困っていました。そのため、破裂したとしても掃除がしやすい機種、操作性の良い装置、というのを探していました。
そのようなときに知人の研究者がInitiator+ Eightをデモで使用しており、実機を見せていただく機会がありました。実際に操作したわけではありませんが、装置のデザインを見て操作性の良さを直観しましたね。その装置をお借りできると知って、早速私もデモを依頼したわけです。やはりデモ機をお借りして、実際に操作することができたのは良かったですね。
◆短時間で分解反応が完結!照射効率に優れたマイクロウェーブ装置
─ 様々なメーカーの装置をお持ちの中、どのような点にInitiator+ Eightと他社装置との違いを感じましたでしょうか?
池永先生 :
知人から他社の装置よりも電界密度が高いと聞いていたので、実際に検証したいと思いデモ期間中いろいろと試してみました。すると、私たちが目的とするGFRPの樹脂部分の分解反応が非常に上手く進行しました。
想像以上でしたので、正直驚きましたね(笑)。
特にベンジルアルコールで分解してみた場合、3時間反応での比較したところ今までの他社装置では「濁った反応混合物」だったのですが、Initiator+ Eightでは「透明な反応混合物」を得ることができたのです。
これは後でわかったことなのですが、既存の他社装置では分解反応が完全に進行していなかったため濁っており、Initiator+Eightでは完全分解が進行した状態だったので透明な混合物が得られていたのです。つまりInitiator+ Eightを使用すると短時間で分解が完結できていたのです。時間的にも、他社装置の約1/2程度に短縮されました。そのため、デモ期間の後、Initiator+ Eightを導入することに決めました。
─ 「分解効率が良かった」というのは、マイクロウェーブの照射効率が高いということでしょうか?
池永先生 :
そうですね。その結果、完全に分解されるのが速くなったのだと思います。照射効率を細かく調べたわけではありませんが、時間は確実に短縮されましたね。
◆今まで悩まされていた装置の復旧
『Initiator+ Eightは使う人の事を良く考えられている装置』
─ 実際に導入されて、Initiator+ Eightの印象はいかがでしたでしょうか?
池永先生 :
分解効率の他にも、デモのきっかけとなった“反応容器の破裂後の復旧”もとても簡単に行えましたね。実際に導入後も何度が破裂させてしまったことはありますが、装置の内部が洗浄しやすいこと、そして復帰しやすい構造である点は素晴らしいですね。
他社の装置は、反応容器の設置部分が装置の中央にあります。そのため破裂した場合、取り出したり洗浄したりするのがなかなか大変でした。Initiator+ Eightは反応部分が装置の端にあるので、万一の場合でもカバーを外すことで簡単に洗浄ができます。破裂した反応容器も回収しやすくなっています。ソフトウェアも圧力・温度・時間などが柔軟に対応できるので、装置の使い勝手もとても良かったですよ。使う人の事を良く考えられている装置だと思います。
また、Initiator+ Eightはオートサンプラーが付いており自動連続反応が可能ですので、分解反応を連続で5~8個セットして使用しています。他の装置では1反応しかできなかったので、次の反応を準備するには、反応が終わるのを待っていなければいけませんでした。研究室の学生も、今は8本一気に仕込むことができるので非常に便利だと言っていますよ。
夜に反応させることができるのも良いですね。1反応に3時間必要ですので、5個反応させようとすると3×5=15時間必要です。ですが帰る前に仕込んでおけば翌日の午前中には反応が終わっています。時間を有効に使えますよね。
時間のロスが少なく8本連続で反応させることで、分解物の量を今まで以上に容易に得ることができるようになりました。そのため、次の再利用実験や測定実験へより早く進むことができるようになりました。
◆マイクロウェーブ“分解” 専用装置の開発を
─ ご研究に少しでも貢献でき、とても嬉しいです。最後に、Initiator+ Eightのデメリットやバイオタージに対するご要望などはございますか?
池永先生 :
そうですね、細かい点を言えば、ナビみたいに喋ってくれたらいいなぁ、と思います(笑)。セットしたら「ツギハ、○○シテクダサイ」とか、「オワリマシタ」とか(笑)。時々、操作していてエラーなどの意味がわからないときがあります。そんなときにもナビみたいな機能が付いていたら良いかもしれませんね。
それから、反応によっては反応容器内が反応終了後でも加圧状態のままになっていることがあります。加圧状態のままでは次の反応へ移らない場合があるため、手動で圧を抜く必要があります。その圧抜きをするのが、もう少し楽にできれば、と思っております。「自動圧抜き機能」が開発されれば本当に嬉しいですね。
ただ私は合成装置を分解反応に使用しているので、それ自体いけないのかもしれませんが(笑)。そういう意味で、バイオタージの技術を使った『マイクロウェーブ分解反応装置』ができてくれると一番嬉しいですね。
私たちの研究は、単に研究だけにとどまらずに、実用化を目指した研究でもあります。シングルモードで成功した条件をそのまま実施できる“大容量対応装置”を将来望んでいます。そのような装置の開発も、ぜひぜひお願いしたいと思っております。
─ 貴重なご意見、ご提案、誠にありがとうございます。今後の弊社製品開発に役立てたいと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
インタビュー実施:2015年12月
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※この研究の一部は、(一社)日本海事検定協会の調査研究(平成24~26年度)において遂行されました。
導入製品
マイクロウェーブ合成装置
Initiator+ Eight
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/microwave-synthesis-work-up/initiator8_top/
400W のシングルモード照射で、パワフルに温度制御するできるマイクロウェーブ合成装置です。操作性・安定性に優れたマイクロウェーブ合成装置として多くの研究機関で活躍しています。Initiator+Eight は 8 本の連続反応が可能なオートサンプラー付きのため、手動操作や中断の時間ロスなく、大小さまざまなバイアルを組み合わてフレキシブルに操作することができます。
導入機関
学校法人 君が淵学園 崇城大学
URL: https://www.sojo-u.ac.jp/
崇城大学は、「プロを養成する」という理念に基づき 2000 年に熊本工業大学から現大学名に改称しました。元は工学部のみの単科大学でしたが、2000 年の大学名改称以降は薬学部・生物生命学部・工学部・情報学部・芸術学部の 5 学部 11 学科、さらに薬学部を除く全学科に対応する専攻を大学院に備えた総合大学となりました。工学部は機械工学科・ナノサイエンス学科・エコデザイン学科・建築学科・宇宙航空システム工学科から成り、大学創設以来、人間の暮らしを多面的に支えるものづくり技術者や研究者を輩出しております。
ナノサイエンス学科では、「ナノ素材」がライフスタイルを大きく変えようとしている 21 世紀にバイオ・環境・先端材料分野で役立つナノテクノロジーを研究して、ものづくりで社会に貢献するグローバルな人材を育成することを目指しています。