有機合成のイノベーション!
これからの DNA 研究に Isolera Spektra
熊本大学 自然科学研究科産業創造工学専攻
物質生命化学講座 井原研究室
熊本大学自然科学研究科 産業創造工学専攻 物質生命化学講座の井原研究室では、DNAを活用したバイオ分析研究の中でバイオタージのフラッシュ自動精製装置「Isolera Spektra」をご活用いただいています。今回は同研究室の井原敏博教授にお話をうかがいました。
─ まず、先生のご研究のテーマとお仕事の内容について教えてください。
井原教授 :
私たちの研究室では、核酸をベース(基材)に色々な化学修飾をし、生理活性物質を検知するようなシステムを開発しています。
具体的には、光るDNA(Deoxyribo Nucleic Acid)、電気を通すDNA、金属をつかまえるDNAといった機能性のあるDNAを組み合わせ、特定の物質を検知できるようなシステムを開発しています。
例えば、あるDNAの末端にフェロセンという電気を通す物質を付けます。別のDNAの末端にはシクロデキストリンという他の分子を覆ってしまう物質をくっつけます。特定のDNAやRNAがある時にだけフェロセンとシクロデキストリンがくっつくようなDNAの組合わせにデザインします。シクロデキストリンがくっつくとフェロセンは遮へいされ、電気が流れなくなってしまいます。つまり特定のDNAまたはRNAの有無を電気シグナルの変化で確認することができるのです。DNAの鎖交換反応を巧みに利用するとこのシグナルを増幅することも可能になります。
DNAに修飾されたEDTAとPhen(いずれも金属配位子)が標的DNAやRNA上で集まります。そこで特定の金属イオンを捕まえて発光性の金属錯体を生じます。
─ 特定のDNAやRNAを検知するシステムを開発する、というのはおもしろいですね。
井原教授 :
そうですね。他にも、ある別々のユニットが標的DNAやRNA上で集まったときにだけそこに金属イオンが結合して光る、というものもあります。
─ 従来から“特定のDNAを検知する方法”というのはあるものなのでしょうか?
井原教授 :
もちろん、あります。私たちは、既存の方法と比較して、より簡単に、より高精度に検出しようと工夫をしているのです。既存の方法との競争ですね。その点に気をつけながら研究しています。
DNAをベースにしていろいろな分子を組み合わせることで、検知するのがDNAやRNAだけではなく、それ以外の分子でもターゲットにすることができるのです。タンパク質、その他生理活性小分子、または細胞などいろんなものをターゲットにし、汎用のバイオ分析法に展開したいと考えています。さらには、バイオ分析だけではなく、この技術を生体機能の制御にも応用したいと考えています。
その手段として、人工DNAを作るためにまず有機合成があり、それを使って核酸DNAの構造や動きをデザインして生理活性物質を検知するようなシステムを開発したいのです。
システムをデザインするためにはDNAに修飾させる化合物を合成するのですが、この合成化合物の精製にバイオタージのIsolera Spektraが活躍しています。精製してからDNAの鎖中に導入したり両末端にくっつけて特定の機能をもつ人工DNA分子ができるわけです。
◆有機合成の効率を上げたい!
井原教授 :
私が学会で研究結果を話すときには、有機合成の説明は一瞬で終わってしまいます。しかし実験の9割の時間を、学生たちはこの合成の作業に費やしているので…、できるだけ有機合成の効率を上げたいです。有機合成が目的の研究ではありませんから。
─ 9割が合成とはとても驚きですね。
井原教授 :実際、いくつかの実験ではこの合成段階で断念してしまうものもあります。購入できるような化合物では、新しい研究にはなりません。新規の化合物によるデザインが必要になります。そのため、合成は非常に大事なのですが、その分走り抜けるぐらい効率よく進めたいのです!
◆『精製できないと先に進めない。』
─ 精製装置を検討されていた際に、弊社のIsolera Spektraを導入された経緯を教えていただけますか?
井原教授 :
以前から精製が自動でできる装置がある、という話は日本化学会などで聞いて知っていました。ですが、機械でそんなにうまく出来るわけが無いと思って、あまり真面目に考えていませんでした(笑)。それと、ランニングコストも気になりましたから。
きっかけは、具体的には忘れましたが、人から「あの装置は良いよ」と聞いたことです。
学生時代の友人が「自分の勤務する製薬会社では、1人1台持っている!」と話していたのです。メーカーの人は良いことしか言わないので信じないのですが(笑)、利害関係のない友人の話なので、ちょっと検討しようかなと思いました(笑)。
─ そこでIsolera Spektraをデモされたのですね。
井原教授 :
バイオタージと、他社の装置をデモしました。正直言って、他社のソフトウェアも非常に魅力的で実は最後まで悩んだのですが…(笑)
Isolera Spektraで気に入った点は、全波長で見られること、装置が丈夫なこと、ごちゃごちゃしていなくてスッキリしていること。そして操作する際に自由度が感じられたことですね。
2種類並べて使ってみてかなり悩んだのですが、バイオタージのカラムのプロフェッショナルの方とも色々お話しして、やはり全波長が取れる点でバイオタージに決めました。
─ 使ってみて印象はいかがでしたか?オープン(マニュアル)カラムとの違いなどは感 じますでしょうか?
井原教授 :
私が学生の頃はずっとオープンカラムでしたが、カラムにシリカゲルを詰めるのはけっこう大変でしたよね。私はそんなに嫌いじゃなかったんですけど(笑)。オープンカラムはせいぜい1日1、2本が限界でした。あの頃と比べれば、今では研究の進み具合が格段に違いますよね。時間的なメリットが一番大きいと感じますね。やろうと思えば、1日に4回も5回も精製できます、…学生がそこまでやってくれるかは別ですけど(笑)。空いた時間には他のこともできますからね。
今までならちょっと精製が難しかったというものでも精製装置を使えば分けることができますから、これは大きいですね。精製できないと先に進めませんから。
最近合成したもので一番大変だったものでは、8段階の合成が必要だったものがありました。その化合物の合成のときにもバイオタージのIsolera Spektraがだいぶ活躍してくれました。
研究室ではバイオタージの装置以外にもいくつかの有機合成に関係する装置を導入しましたが、時代が変わったなぁ、と思います(笑)。私が学生の頃だったら断念するような分子でも、なんとか作ることができるようになりましたからね。
ここ最近の「有機合成のイノベーション」にお金をかけるのは良い投資だと思っています。
◆3次元スペクトルデータが確認できる、全波長『Spektra』機能
─ Isolera Spektraの印象はいかがでしたか?
井原教授 :
実際使ってみて、本当に良いですよ。きちんと分離できていますし、使い勝手も良いです。流路も太いのでしょうか、詰まることも無くて、思っていた通りとても良いですね。
そして、設置面積が少ないことも気に入っています。溶媒瓶が装置の上に置けてコンパクトで。購入した後で気づいたのですが、場所が狭いため嬉しかったです。
─ 全波長が決め手、と仰っていましたが、実際にどういった際に全波長の良さを実感しますでしょうか?
井原教授 :
私たちの修飾する化合物には可視部に吸収があるものがあります。 そうなると紫外部だけではなかなか特定しにくいのです。
全波長が見られると、可視部にも吸収があるか確認ができます。マス(質量分析装置)で同定する前に、可視部にピークがない化合物をはじめから除外して考えることもできますから、効率が良くなりますよね。
学生に、ちょっとスペクトルを見るように言って、「ほら、可視部に無いだろう。もともと合成できてなかったんだ!」とわかったこともあります。
HPLCでもそうですが、毎回全波長のピークを確認しているわけではありませんが、何かあったときに確認できる点が一番有り難いです。全波長検出は毎回行われているので、データが必ず残っています。後から2次元ピークだけではなく、3次元まで見ることができるという点が大変ありがたいです。
─ Spektraの良さを実感していただき、ありがとうございます。なかなか良さが伝えづらい機能ですが、 実際にはとても便利な機能ですよね。
井原教授 :
たしかに良さは使ってこそわかるかもしれませんね(笑)。
企業でも大学でも、合成する化合物がひとつのシリーズで決まっていて、ルーチン作業をやるだけなら、Spektraは要らないのかもしれません。
私たちは常に違うものを作っているため、分取した後でそれぞれのピークのスペクトルが見られるのはすごく良いですよ。すぐに3次元で確認できるわけですからね。ですので、実際使ってみるとやはり全波長が便利です。
現在Isolera Spektraを使っている学生は5、6人ですが、時々カラム待ちの学生が居るようなので、次に予算がついたら、Isolera Spektraをもう1台増設したいと思っています。
─ ありがとうございます。是非、お待ちしております(笑)。
◆予測グラジエント作成のさらなる向上に期待
─ 何かご要望などはございませんか?
井原教授 :
いつもよくしていただいていますので、今のままで良いのですが・・・、TLCからのグラジエント作成精度がより高くなればいいな、と思います(笑)。
今のTLCからのグラジエント作成ではここまでにピークを出したい、といったことまではできませんよね。もう少し速く出るようなグラジエントにならないかな、と思うことがあります。バイオタージにとっては、それほど難しい機能ではないと思いますが・・・?有機合成に関してバイオタージはいろいろと頑張っておられますからね。その点もぜひ取り入れて欲しいです。
─ 貴重なご意見、ありがとうございます。機能に反映できるよう努力致します。本日はお忙しいところ長時間ありがとうございました。
インタビュー実施:2015年10月
PDFファイルダウンロード(2.1MB)
導入製品
フラッシュ自動精製装置
Isolera Spektra
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/isolera_spektra/
精製に対するケミストの要望を最大限取り入れた、コンパクトな最 新のフラッシュ精 製システムです。Spektra(オプション)では、全波長スペクトルスキャンにより、ベースライン補正ができるだけでなく、より化合物認知を確実に行い、取りこぼしなく化合物を回収します。
導入機関
国立大学法人 熊本大学
URL: http://www.kumamoto-u.ac.jp/
旧制熊本医科大学と旧制第五高等学校を主な母体とし、熊本市内の旧制諸学校を包括して、昭和24年の学制改革により、新制大学として設置されました。現在は市内3つのキャンパスに7学部7研究科、教職員2600人、学部生8000人、大学院生2100人を抱えています。自然科学研究科は、理学部および工学部が主体となって再編された研究科で、物質生命化学講座の井原研究室では、人工核酸を利用した信号変換システムの構築を目指し研究を行っています。
(井原研究室HP:http://www.analyticalchemistry-ihara.com/)