『有機金属触媒反応に
マイクロウェーブ合成装置
Initiator を活用』
大阪大学産業科学研究所
大阪大学産業科学研究所のソフトナノマテリアル研究分野では、先端機能材料を目指した新規π共役系化合物の合成と物性評価を行っており、その有機合成反応の際に Initiator を活用していただいています。
今回は家裕隆准教授にお話をうかがいました。
─ 本日はお忙しいなか、ありがとうございます。
まず、先生のご研究の内容について教えてください。
家先生:
新しい物性を示す化合物合成を行なっております。
中でもベンゼン環のような芳香族化合物は分子構造を拡張すれば新しい物性が出ます。これを利用して、エレクトロニクス材料への応用に向けた新物質の合成を行ない、その物性の評価も行なっています。
研究の中でも有機エレクトロニクスと分子エレクトロニクスの2つの分野があります。有機エレクトロニクスでは、例えば太陽電池やディスプレイ、トランジスタなど、従来の無機半導体でできているものを有機半導体で実現しようとするものです。素子が軽くなり、曲げたりすることもできるので、今とは違う使われ方が実現できるようになると思います。
もう一つが分子エレクトロニクスで、究極的な素子の小さな構造をデバイス機能に使おうというものです。究極的には、1つの分子でもテレビや太陽電池で使われているものと同じ機能が出ることを目指して研究しています。
◆マイクロウェーブは便利で早い
─ 合成の際にマイクロウェーブを使われるようになったきっかけを教えてください。
家先生:
産業科学研究所の中に、共有機器としてすでにバイオタージのInitiatorが入っていました。論文でも良くマイクロウェーブを用いた反応を目にすることが増えていたため、使用してみようと思ったのがきっかけです。
私たちの研究では、100℃や120℃という熱をかけ、ひと晩程度反応させることが多かったのですが、マイクロウェーブで行うと圧倒的に時間の短縮ができ、これはどんどん使いたいと思い、使用頻度がすごく増えたので研究室で購入したというわけです。産業科学研究所で2台目ということになります。
◆設定方法が簡単で、学生でも使いやすい
─ 導入される際、他社さんの製品を検討されたことはなかったのでしょうか?
家先生:
当然、他のメーカーのカタログも取り寄せたのですが、パネル表示やメンテナンスの部分で違いがありまして。
バイオタージの装置の使い勝手が良かったので、これを導入しようとなりました。
使用経験があったということもあり、即決でしたね。
Initiatorは、条件設定は英語ですが、シンプルな平易な言葉で表示されるので、学生にも使いやすくなっています。設定する箇所も少ないですしね。マニュアルは、なかなか見ませんから。
─ 仰るとおりですね。どの装置も“マニュアルがいらない”というのを弊社は目標にしております。
家先生:
いいですね。有機化学者って機械が苦手なんですよ(笑)。簡単に動かせないと、みんな使わなくなるんです(笑)。Initiatorの一番良い部分はそこですね。操作画面も、今のところ壊れたことがありません。
◆ひと晩かかったものが約5分 1週間かかったものが約40分に大幅短縮
─ 具体的に、どのような部分で良さを実感されていますか?
家先生:
有機反応、有機金属反応ではだいだい使えると思います。中でも私たちが最も重宝しているのは、有機金属触媒反応です。触媒反応というのは、かなり時間がかかることが多いのです。ですがInitiatorを使うと、効率よく早く出来ます。すごく重宝しています。
─ どのくらい早いのでしょうか?
家先生:
通常の熱還流でひと晩合成するものが5分、1週間くらい必要だったものがだいだい40分で合成できますね。合成時間が短縮されたおかげで、合成できる反応の数が圧倒的に多くなり、以前は1日に1回だった反応が1日に5回など、数がこなせるようになりました。圧倒的なメリットですね。
◆マイクロウェーブでなければ出来ない? 優れた反応性
家先生:
もう一つは反応性です。フラスコで長時間合成する場合とマイクロウェーブで短時間で合成する場合とでは、本来は変わらないはずです。ただ、いくつかの反応系ではマイクロウェーブだと反応が綺麗に進行するのです。
例えば、最近投稿した論文の中のある化合物は、マイクロウェーブでなければ合成できませんでした。バッチ(通常の条件)でも理論的には可能なはずなのに、生成物が得られませんでした。おもしろいことに、紙の上と実験は全然違うんですね。
その原因は判然としませんが、バッチだと反応時間が長いせいで触媒か基質が壊れているのかもしれませんね。この反応系に関してはマイクロウェーブが必須です。マイクロウェーブがなかったらおそらく出来ていなかった化合物ですね。それ以来、この基質を使うものはマイクロウェーブ限定で行なっています。
─ 反応時間短縮だけではなく、通常できない反応ができる、というのはおもしろいですね。
家先生:
そうなんです。そういう可能性があるのです。生成物の安定性が低い反応系に関しては、例えば今まで論文などでコンプレックスミクスチャーなど、合成がうまくいかなかったと報告されているものも、もしかしたら、マイクロウェーブを使うと合成できる可能性はありますね。これまで、見逃してしまっていた可能性はあります。本当 に優れものですね。
◆他社との設定方法の統一が、今後の課題
─ 何かお困りのことはありますか?
家先生:
困ったといいますか、よく他の研究者から問い合わせがあるのが、反応条件です。バイオタージは何℃、何分で設定するのですが、メーカーによっては何W で設定するものもある。他の研究グループが実験を再現しようとした時に、同じメーカーの装置がないと再現できないのです。
私たちも他のグループが発表している化合物を作ろうとしても、論文で何Wと書いてあると私たちはどのくらいの条件でやればいいんだろうと悩んでしまいます。その反応条件が私たちは正確には再現できないのです。私たちで再度条件検討するのは時間がもったいないですよね。
─ Wは実際反応が何度で行われているかわかりづらいですよね。最近ではそのような設定の装置も含め、マイクロウェーブ装置のメーカーが増えてきつつあります。特殊な装置から一般的な装置になってきたということですね。これからは汎用的な装置だと意識して開発していかなければいけませんね。
家先生:
そうなんです。今後、皆さんが使い出すと統一性が問われてくると思いますね。
─ これまで聞くことがなかったご意見ですので、大変参考になります。
家先生:
特にポリマー合成の場合、反応条件がとても重要になってきます。温度や時間の違いが生成されるポリマーの分子量の違いに影響します。分子量が違えば物性が全く違ってくるので、反応条件が厳密にわかっていないと再現がさらに難しくなります。
─ 他社機種での条件も応用できるようなアイテムが必要ですね。
家先生:
そうですね。互換表のようなものがあれば、ユーザーとしては非常にうれしいですね。
─ 仰るとおりですね。とても参考になります。その他にご要望はございますか?
家先生:
反応の経時変化が見れると良いですね。反応が終わっているのか、途中なのか判断する材料になりますので。分子量を測るMSがついていたりするとうれしいですね。
─ そうですね。弊社では“精製装置”にはマス検出付きのもが発売されているのですが、マイクロウェーブ合成装置にも仰るとおりあると便利ですね。
家先生:
分子量が2000~3000くらいのものが見えるとすごく助かりますね。
─ その点も含めて弊社も努力してまいります。本日は、いろいろと貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。
記事掲載日:2015年1月5日
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導入製品
『マイクロウェーブ合成装置
Initiator』
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/microwave-synthesis-work-up/ini_puls/
400Wのシングルモード照射で、パワフルかつ精密に温度を制御します。操作はタッチパネルスクリーンを採用し、PCなどの余計なスペースを必要としません。操作性・安定性に優れたマイクロウェーブ合成装置として多くの研究機関で活躍しています。
導入機関
大阪大学産業科学研究所
URL: http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/omm/
原点は、医師で蘭学者の緒方洪庵が1838年に設立した適塾。
大阪仮病院や大阪医学校などを経て1931年、日本で6番目の帝国大学として、医学部と理学部の2学部からなる大阪帝国大学が創設されました。1949年、文学部・法経学部・理学部・医学部・工学部の5学部と一般教養部からなる新制大阪大学へ。現在は11学部、10研究科を抱え、学部生約1万5000人、大学院生約7900人、教職員約6000人に上ります。産業科学研究所の家裕隆准教授の研究室では、有機分子の開発などの研究をされています。