株式会社森永生科学研究所 研究開発部

『食の安全・安心』を守る

- 有害化学物質アクリルアミド測定で
固相抽出カートリッジを採用-

株式会社森永生科学研究所 研究開発部

株式会社森永生科学研究所は、食品中の有害物質を測定・検出する「モリナガ アクリルアミドEIAキット」を開発し、食の安全・安心を守る重要な役割を担っています。迅速・簡易にアクリルアミドを測定するキットの処理工程で使用する固相抽出カートリッジとして、バイオタージの「ISOLUTE Multimode」が採用されました。今回は、直接開発に携わった研究開発部の髙橋美津子さんと、研究開発部リーダーの境雅寿さんにお話を伺いました。

株式会社森永生科学研究所 研究開発部
境 雅寿さん
株式会社森永生科学研究所
研究開発部リーダー

── まず御社の概要から教えてください。

境さん
「当社の親会社は森永製菓です。森永製菓の“おいしく、たのしく、すこやかに”という基本理念に基づき、当社は“『すこやかさ』を科学する”というビジョンのもとに活動しています。創薬支援分野、および食の安全・安心という分野で、免疫化学測定技術を用いた検査キットを製造・販売しており、一昨年、設立30年を迎えました。」

◆『食の安心・安全』ニーズ拡大

── 食品の安全性検査が注目されたのはいつごろからですか?

境さん
「2001年4月に、厚生労働省のアレルギー物質を含む食品の表示制度が施行されたことがきっかけです。食品中のアレルギー物質を測るためのキットがほしいということになりまして、当社で『モリナガ特定原材料測定キットシリーズ』を開発し販売を開始しました。また、BSE(牛海綿状脳症)が問題になったときには、法令によって牛など反芻動物に与える飼料中には牛や鶏のタンパク質が含まれてはいけないとされ、それを検査するためのツールとして飼料中にこれらのタンパク質が含まれていないかどうかを検出するキットも開発しています。」

── アレルギーを引き起こす可能性のある物質については、確かにすべての食品パッケージに表示されていますね。

境さん
「最初は、卵・乳・小麦・そば・落花生の5品目で、その後にえび・かにの表示が義務付けられました。義務化されていない表示推奨品目を含めると25品目ほどが対象になっていますね。」

◆アクリルアミド低減は国際的な動き

株式会社森永生科学研究所 研究開発部
髙橋 美津子さん
株式会社森永生科学研究所
研究開発部

── かなり多いのですね。今回、バイオタージのISOLUTE Multimodeをご採用いただいたのは『モリナガ アクリルアミドEIAキット』です。この商品についてご説明をお願いします。 まず、アクリルアミドとはどのような物質なのですか?

髙橋さん
「アクリルアミドはヒトに対する神経毒性を持ち、おそらくは発がん性もあるだろうと指摘されている有害化学物質です。通常は工業的に使われている物質ですが、2002年より、ジャガイモを揚げたスナックや穀類を原料とする焼き菓子、焙煎した食品などの製造過程で意図せずに生成されることが明らかとなりまして、これらの食品を食べることでヒトの健康に悪影響を与えることが懸念されています。そうした背景のもと、食品に含まれるアクリルアミドを低減するための取り組みが促進されています。」

── なるほど。具体的にはどのような方法がありますか?

髙橋さん
「食品原料中の還元糖とアスパラギンが高温で反応してアクリルアミドになりますので、例えば、還元糖の含有の少ないジャガイモに品種改良するとか、食品の加工法を変えるなどの取り組みがあります。国際的には、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同食品規格委員会(CODEX委員会)が、2009年にアクリルアミド低減のための実施規範を出しています。」

── 国内でもこの問題に関する取り組みがあるのでしょうか?

髙橋さん
「はい。世界的にそのような動きにありますので、国内でもアクリルアミドの低減が推奨されています。2002年 に食品にアクリルアミドが含まれることが明らかとなってから厚生労働省や農林水産省がさまざまな調査研究を行っており、その一環で中部大学・カルビー株式会社・当社の提案が2009年度からの農水省プロジェクト「食品中のアクリルアミドを簡易・迅速に測定できる分析技術の開発」として採択されました。その当社の成果として昨年10月に新発売したのが、今回の『モリナガ アクリルアミドEIAキット』です。」

── キット開発経緯を少し詳しく教えてください。

髙橋さん
「食品中のアクリルアミド測定は、現在はガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)や液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)を採用した機器分析が中心なのですが、これは初期投資がかなり高くなります。高度な分析技術を必要としますので、必ずしもすべての食品メーカーが導入できるとも限りません。そこで私たちは、すべての食品メーカーが利用できる簡易で安価な手法の開発を目指し、得意とする酵素免疫測定法(ELISA法)を採用することで今回のキットを完成させました。ELISA法の1種である競合法という方法を用いて食品に含まれるアクリルアミドを定量するキットです。バイオタージのISOLUTE Multimodeは、最初に食品からアクリルアミドを抽出する際に、クリーンアップする目的で使用しています。」

◆精度の良い検出系を構築するうえで重要な要素

株式会社森永生科学研究所 研究開発部── まず初めにサンプル液を調製するところで使うわけですね。
ISOLUTE Multimodeに決めた理由を教えていただけますか?

髙橋さん
「そうですね。実は当社のキットの固相抽出法は機器分析で使われている方法を参考にしているのですが、そちらでISOLUTE Multimodeの使用実績があったのです。また、以前に別の案件でバイオタージのカートリッジを試して良かったという理由もありますね。」

境さん
「固相抽出カートリッジの使用法としては、目的物を選択的に固相に吸着させることが多いと思うのですが、たとえば抗体カラムなどアクリルアミドに対する選択性を持つカラムは一般的に手に入るようなものではありません。すべての食品メーカーさんが簡単に測定できるという今回のコンセプトを考えると、ISOLUTE Multimodeで夾雑物を除去する方法が最適な解答でした。実際、アクリルアミドの認証サンプルを用いた評価でも優れた結果が出ており、このISOLUTE Multimodeは精度の良い検出系を構築するうえで重要な要素となっていますね。」

── なるほど、アクリルアミドを選択的に捕捉することは難しいのですね。

髙橋さん
「付け加えますと、アクリルアミドは分子量が小さいので抗体を作りにくいという問題がありまして、抗体カラムを一般的に入手することは難しいのが現状です。また、仮にそうしたカラムが手に入ったとしても、目的物を脱着させるという操作が必要になります。有機溶媒を使い、pHを調整するなどして脱着させるわけですが、強酸・強アルカリなどの条件になった場合、そのあとの処理につなげるためにさらに一手間かかります。バイオタージのISOLUTE Multimodeは水で抽出しますので、ニュートラルな条件のまま簡易な操作で扱えることが大きなメリットです。」

── 「モリナガ アクリルアミドEIAキット」の測定にはどのくらいの時間がかかるのですか?

髙橋さん
「検体の数でも変わってきますが、1日で測定が終わるように想定して開発しました。機器分析ですと、サンプルの抽出にひと晩かかったり、冷凍操作に数日かかったりしますので、時間短縮にも有効だと思います。」

境さん
「当社のキットでは24検体を同時に測定できます。機器分析法と比べますと、検体数が多くなるほど、ユーザーさんはわれわれのELISA法の方が楽だと感じると思いますよ。」

◆測定性能向上へISOLUTE ENV+の採用を検討

── わかりました。バイオタージ製品に対するご要望などお聞かせいただけますか?

境さん
「さらにより良いキットを開発するために、濃縮を考えたカラムを検討したいと考えているところです。」

髙橋さん
「実は先日から少し試しているのですが、ISOLUTE ENV+カートリッジで良い結果が得られつつありまして、今後さらに条件検討を進めて、濃縮に使えればと思っています。この場合は、ISOLUTE ENV+カートリッジでアクリルアミドを保持して、夾雑物を洗い流してから溶媒で溶出するというプロセスになりまして、溶媒の溶出量を少なくすることでアクリルアミドを濃縮できる可能性があります。」

── バイオタージとしても全力でサポートさせていただきます。ところで、今回の「モリナガ アクリルアミドEIAキット」の発売後の反響はいかがですか?

境さん
「こういうキットはやはり法規制と関係があります。ドイツや韓国では、食品中のアクリルアミド含有量の規制値が打ち出されていますので、そちらからの問い合わせが多いですね。今後、日本でもそうした動きが出てきてくれればと期待します。」

── 御社の製品が広く使われることは、バイオタージにとっても嬉しいことです。世界中で普及することを期待します。本日は長い時間、ありがとうございました。

記事掲載日:2012年11月7日
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導入製品

『ミックスモード固相抽出カートリッジ
ISOLUTE Multimode』

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/sample-preparation-products/mixed_mode_spe/

ISOLUTE MultimodeISOLUTE Multimode は、非極性保持メカニズムとイオン交換保持メカニズムを同時に提供するミックスモード充填剤です。バイオタージの ISOLUTE 固相抽出製品は信頼性の高いブランドとして世界中の検査機関で採用されており、非極性タイプ、混合タイプ、およびイオン交換タイプなど多様な充填剤を取り揃えています。

導入機関

株式会社森永生科学研究所

URL: http://www.miobs.com/

森永製菓グループの一員として、「すこやかさを科学する」というビジョン(基本理念)のもと、「科学とエビデンスに基づいた、信頼される商品、サービス、情報を社会に提供し、人々の健康、安全・安心に貢献する」ことをミッション(使命)としている企業です。「創薬支援」「食の安全・安心」という分野を軸に商品開発を行っていますが、今後は「環境」「ヘルスケア」といった新たな分野に進出することを目標に、研究開発に積極的な投資しています。

設  立: 1980年10月
資本金: 3000万円
従業員数: 39名
本  社: 横浜市
※データは平成23年3月末現在