GLP/GMP対応原薬製造に
金属スカベンジャーが活躍
日本新薬株式会社 CMC技術研究部
日本新薬株式会社は、GLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準)およびGMP(Good Manufacturing Practice、医薬品の製造管理及び品質管理規則)に準拠した適切な管理を実現するため、バイオタージの金属スカベンジャーを利用しています。他の方法では除去が難しいパラジウムを原薬から取り除くなど、残留金属を厳密にコントロールすることが目的です。今回は、創薬研究所CMC技術研究部の原薬開発担当である冨士原聡夫さんにお話を伺いました。
- まず、お仕事の内容について簡単に教えてください。
「おもに探索研究から上がってくる医薬候補化合物の合成法をプロセス開発する仕事です。生産スケールに見合った効率的で安価・安全な合成法の確立を目指します。また、医薬品開発に必要なGLP試験用サンプル、臨床試験用サンプルを供給する仕事も行っています。候補化合物の構造が分かってから、GLP試験、臨床試験、最後は承認申請まで、一つのテーマに長い期間携わることになります。」
◆一筋縄でいかないパラジウム除去
- では、そのなかで金属スカベンジャーは、どのような役割を果たすのですか。
「臨床試験用サンプルを供給するためには、原薬GMPに準拠した製造を行うとともに、そのガイドラインに適合した品質を実現しなければなりません。とくに、最近の医薬品では、鈴木・宮浦カップリングに代表されるようなパラジウムなどの金属を用いたカップリング反応を使用することが多々あります。そのため、最終原薬中の残留金属を厳密にコントロールしなければなりません。金属スカベンジャーはそのための除去法の一つに位置付けられますね。」
- それ以外にも除去法はあるのですか。
「そうですね。通常は抽出や晶析による除去法を用います。ただ、ターゲットの化合物の特性によっては、これらでは歯が立たないということもあるわけです。そういう場合には、今回の金属スカベンジャーのような試薬を使うことになります。」
- よくわかりました。では、バイオタージを採用するに至った経緯を教えてください。
「実は、今回の対象になった化合物は含窒素複素環化合物でして、おそらくは窒素とパラジウムが配位しているために除去が難しかったと考えています。抽出や晶析といった方法では無理でした。さらに、この化合物の合成法上の問題として、最終の精製工程の一つ前の工程においてパラジウムを使ったカップリング反応を行う必要があったので、一度のチャンスで除去できる効果的な方法を模索していたという事情があります。」
◆キット購入でテスト-Si-Thiolが最高の評価
- なるほど。なかなか難しい技術テーマだったのですね。
「はい。そういう時にバイオタージの金属スカベンジャーキットの存在を知りました。やはり化合物に対する特異性がありますので、キットに含まれる5種類のスカベンジャーそれぞれで、溶媒を変えてみたり、温度条件を変えてみたりと、いろいろな評価を行いました。もちろん、他のメーカーの製品もテストしてみましたが、バイオタージのSi-Thiolが最も除去率が高いという結果が得られました。さらに、バルクスケールでの大量発注が可能ということでしたので、スケールアップにも対応できるということで、それが決め手になりましたね。最近では新薬開発のスピードアップが重要視されていることからも、スケールアップへの対応は重要です。」
◆バルクスケールでの供給は大きな利点
- 最初に検討したのが2009年ごろということですね。
「そうですね。検討して、Si-Thiolに決めて、GLP製造、GMP製造と進みまして、順調に原薬製造しています。数十キログラムというスケールでも、小スケールと同様の結果が得られており、まったく問題ありません。」
- 実際に採用されて、バイオタージの金属スカベンジャーの利点はどんなところにあると感じておられますか。
「最初に検討したところから考えてみますと、まずはスクリーニングキットを購入したわけですが、それにパッケージされているスカベンジャーが5種類というのが多すぎず少なすぎずで、ちょうどよかったと思います。溶媒条件なども考慮しなければならないので、あまり多すぎても最適条件を見つけることが難しくなります。さらに、わたしたちプロセス化学の人間にとっては、バルクスケールで供給可能なことがやはり大きな利点ですね。」
◆今後は第一の選択肢になる
- 非常にご満足いただいているようですが、何か要望はありますか。
「これは需要量との兼ね合いかもしれませんが、より安く提供していただければありがたいですね。また、研究の観点からいうと、担体に担持する成分量を増やし、少量でもパラジウム除去能力が高い製品の開発を要望したいです。」
- 最後に、今後の計画についてお聞かせください。
「そうですね。今回のテーマで実績が確立されたわけですから、今後同様にパラジウム除去が問題となるような案件が出てきたときには、バイオタージの金属スカベンジャーが第1の選択肢になることは間違いありません。もちろん、今回のテーマの化合物に関しては、今後の製造でも使っていくことになりますね。」
- 本日はお忙しい中、貴重なお話しを頂き有難うございました。
導入製品
『金属スカベンジャー Si-Thiol』
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/process-chemistry/mstk/
バイオタージ社のレジン担持型及びシリカベースの金属スカベンジャーは、医薬原体の製造工程等における触媒反応液から微量金属(白金族金属(PGM)など)を効果的に除去する試薬です。医薬品製造に限らず、ファインケミカルや農芸化学、廃液処理など、様々な産業に応用可能です。
(写真:スクリーニング用キット)
導入機関
日本新薬株式会社
URL: http://www.nippon-shinyaku.co.jp/
日本新薬株式会社は1919年設立。血液がん治療剤や泌尿器系治療剤を得意領域とする医療用医薬品メーカーです。とくに、いまだ有効な治療法がない難治性疾患や、生活の質(QOL)の改善が強く望まれている疾患に焦点を絞った医薬品開発を推進しています。このほかに機能食品事業も展開しており、「医と食のハイブリッド」を目指して研究開発に全力をあげています。
【設立】 大正8年10月1日
【資本金】 52億円(東証1部・大証1部上場)
【従業員数】 1,815名
【本社】京都市
※データは平成23年3月末現在