自動固相抽出装置 RapidTrace:
競走馬のドーピング検査で活躍
公益財団法人 競走馬理化学研究所(LRC)
競走馬理化学研究所(LRC)では、競馬法に基づく公正確保、及び馬の福祉(馬の健康を守る)という観点から、国内で行われる中央競馬と地方競馬の全レースを対象に、競走馬のドーピングに使用される恐れのある薬物の検査業務を実施しており、毎週約1000件という大量の検体をスピーディーに処理するためにバイオタージの自動固相抽出装置「RapidTrace」を活用しています。その導入の経緯や現在の使用状況などについて、検査部薬物検査課長の木下賢治さんと薬物検査課専門役の白井健策さんにお話をうかがいました。
RapidTraceが活用されているのは薬物検査業務で、レース後に採取された検体(尿や血液)から、最終的にガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)や液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC/MS/MS)などで分析するための試料の抽出を行う。処理する検体は、年間5万件弱、1日あたり200~300件といった数に達する。
◆「とにかくスピーディーにやりたい」
―30台以上の RapidTrace を並列利用
木下さんは、「これだけの件数の抽出を検査員が手作業で行うのは無理なので、高度な自動化を達成したいという目的がありました。また、以前は特注の液-液タイプの自動抽出装置を使用していましたが、溶媒としてハロゲン系溶媒が大量に必要だったため、少量の溶媒を閉鎖的に使える固相抽出装置に変更して環境対策を推進したいと考えていました」と話す。
とくに、LRCの場合は日ごとに大量の検体を処理することが重要になる。「一度に大量の検体をセットできる大型装置よりも、検体の準備が出来次第こまめにスタートをかけられる小型装置をたくさん並べた方が全体のスループットは結果的に速くなります」と木下さん。そのため、10件のサンプルまで扱えるRapidTraceを並列利用する方式を採用したという。白井さんも、「抽出は全体の検査工程からすると前半部分に当たるので、ここはできるだけ早く終わってほしい。抽出したサンプルを分析機器にセットして帰り、翌朝に測定結果が出ていれば、1日のサイクルをうまく回せます」と説明してくれた。
さらに木下さんは、「とにかくスピーディーにやりたいということが第一ですが、どんなシステムでもトラブルはつきものですので、そうした際にも並列化しておくことにより、すぐに別のRapidTraceに検体を移して処理を継続できます」と利点を述べた。
◆「われわれの使用目的にぴったり」
―ミスなく分析法を切り替え
実際のRapidTraceによる処理は3段階に分かれており、固相カラムのコンディショニングを行う前処理、そして単一の試料から効率的に2系統の分画を得るためのAとBの2つの抽出工程がある。「このとき、RapidTraceでは、磁気ラベルを使ってセットしたラックごとに『抽出A』『抽出B』といった具合に分析法を決められるので、人的ミスなしに作業を継続できます。これはRapidTraceの大きなメリットだと考えています」と木下さん。「ルーチン作業に特化しているためシンプルで使いやすく、われわれの使用目的にぴったり合致したシステムです」と話してくれた。
◆「将来的に解決してほしい課題はある」
一方、問題点や要望としては、木下さんが「長所と短所は表裏一体です。全部で33台あるので年間の保守費用がかさむのが悩みですね。それから、多数のRapidTraceを見た目よくきれいにレイアウトできることはいいのですが、トラブル時の作業性が良くないことがあります」と指摘。
さらにRapidTraceの構造的な問題点について、「同一のシリンジ内に試料や溶媒が流れ込む設計上、キャリーオーバーの危険性があることが考えられます。洗浄工程を十分にすることで回避は可能かと思いますが、できればこの点についてはバイオタージさんにもぜひ改善点として検討してもらいたいですね」と木下さん。
LRCの検査結果は、陽性の場合、法律違反に関る刑事告発につながることになる。そうした重い責任感のもとに仕事をされているだけに、検査結果の信頼性確保に真摯に取り組んでいた。
◆「現時点で最適なシステム」
最後に木下さんは、「ドーピング検査はある意味いたちごっこですから、今後も禁止薬物がさらに増え、それに応じた新しい検査法も開発されてくると思います。そうした中で、固相抽出法はとても優れた方法であり、これからもふさわしい自動化システムを探っていきたいと考えています。RapidTraceには今後の課題もありますが、現時点でわれわれの目的にかなった最適なシステムであることは間違いないです」とまとめてくれた。
木下 賢治さん(右)
公益財団法人競走馬理化学研究所
検査部 薬物検査課長
白井 健策さん(左)
公益財団法人競走馬理化学研究所
検査部 薬物検査課 専門役
導入製品
『自動固相抽出装置
RapidTrace®』
URL: –
モジュラー構成を採用したハイスループット自動 SPE 処理プラットフォームです。1mL、3mLまたは6mLの標準的なSPEカラムを自動処理できます。各モジュールには、それぞれ SPE カラムを10本まで(6mLカラムは5本まで)セットでき、使いやすい制御ソフトウエアで最大10モジュールまで連結して動作させることができます。モジュラー構成になっていることで最適なスループットを得ることができ、また、それぞれのカラムを全て異なるメソッドで処理することもできるため、メソッド開発の効率化などにも貢献します。
導入機関
公益財団法人 競走馬理化学研究所(LRC)
競走馬理化学研究所(LRC)は、競走馬の薬物検査と検査法の開発に関する研究を行う財団法人として1965年に設立されました。今年の6月1日から公益財団法人に移行しており、薬物検査業務、DNA型検査業務、研究業務、一般化学分析業務の4事業を推進しています。また、2004年7月には薬物検査部門が試験所の能力に関する国際規格ISO/IEC17025の認定を取得し、検査の信頼性が認められています。