特別企画:粘性の高いサンプルをカラムチャージする必殺技
「桐山バイオタージ」
Chem-Station ポンコツさん
今回は、化学ポータルサイト Chem-Station のスタッフメンバーのポンコツ博士さん(ポンコツさん)が、粘性の高いサンプルをカラムチャージする必殺技「桐山バイオタージ」を編み出されたということで、お話をうかがいました。
<ポンコツさんの紹介>
Chem-Stationの ポンコツシリーズ の筆者で、累計10万PV(2022/9/20時点)の人気ライター。
2018年に徳島文理大大学院 薬学研究科にて博士課程修了後、博士研究員として2021年まで従事。
2021年に調剤薬局と特別研究員を兼任。同年12月から米国のラボで博士研究員として勤務。
― ポンコツさんの研究や環境について教えてください。
ポンコツさん:
薬剤耐性菌への克服を目指して新たな抗菌薬の創薬研究を行っています。「人類と細菌との生存競争は日進月歩である…」そういう思いで日々研究に取り組んでいます。
ペプチド縮合剤を使って鎖状ペプチド化合物を有機合成しているのですが、精製がとても面倒です。今の米国のラボでバイオタージの Isolera™(アイソレラ)が休眠状態であるのを見つけ、これを活用したいと活動しています。
◆ 『桐山バイオタージ』という必殺技
― 今回発明した必殺技『桐山バイオタージ』とはどのようなものでしょうか?
ポンコツさん:
御社のサンプルロードカラム Samplet®(サンプレット)と桐山ロートを組み合わせて、粘性の高いサンプルのロードを簡単に早くする技になります。自分が合成した後の混合物は粘性が高く、精製でサンプルをチャージする際、カラムに浸透するまでとても時間がかかっていました。
時短チャージするために、試しに桐山ロートで吸引したところ、これが上手くいきました。ほぼすべてのサイズで吸引できました。ヌッチェでもできないことはないですが、見えないのが難点ですね。
Samplet の溶媒を除く方法としては、窒素ブローと減圧乾燥を使用します。通常は吸引瓶を陰圧ラインにつないで減圧乾燥しますが、フリット上に染み込んでいない溶媒があれば窒素ブローで気化させた後に同様の操作をします。
チャージする量が多いと漏れてくるので、注意が必要です。私の場合はクルード 30 g をのせたかったので、10 mL の溶液を作って、だいたい 2 mL ぐらいチャージして乾燥というのを繰り返していました。化合物の特性として完全には Samplet にトラップされず落ちてきてしまう性質でしたので、このように小分けでチャージしました。
たまにですが、サンプルの粘度が高すぎるとチャージむらが起きることがありました。この解決方法として、ジクロロメタンもしくはアセトンで 1/3 程度先に濡らして乾燥すると、結構上手くいきました。正直少し面倒ですが(笑)
― 通常ではどのように精製をされていますか?日本と海外のラボの違いもあればぜひお願いします。
ポンコツさん:
今の米国のラボではオープンカラムが主流です。研究所全体が古典的な手法を使っていることが背景にあると思います。Isolera などフラッシュ精製装置はうちのラボにしかなく、一研究員としてはカラムを立てて精製するのが普通で、難しい精製は専門の精製チームに依頼しています。
今のラボで求められる必要量は、最終的に 500㎍ 程度あればよく、少量を多くの種類ほしいので PTLC を使うことが多いです。
ただ、in vivo まで進むと最終物が 5 g 必要になってくるので、中圧カラムじゃないと厳しいですね。また、極性のバイプロが厄介で、500 mg では分かれたけど 30 g に量上げすると分かれないというようなことがよくあります。私自身は原点から Rf 値 0.3 ぐらい離れていれば濾過クロマト(ろ過マト)で原点抜きを行ってからカラムを行っていますが、テクニックが必要なので、大きいスケールで経験値を多く積んでいる学生にしかろ過マトは教えていないです。
そこで、眠っていた Isolera を今は上手く活用しています。高極性化合物でテーリングしやすい化合物が多くても、Isolera とバイオタージの Sfär(スフェア)カートリッジを使うことで一度に早くきれいに精製することができるようになりました。今のラボでは比較的お金に余裕があるので、カートリッジを使い捨て出来るのが最大の強みですね。
◆ 桐山ロートは一点吸引なので最適
― 必殺技『桐山バイオタージ』を思い付いたきっかけは何ですか?
ポンコツさん:
下の写真のように、サンプルの浸透時短にアスピレーターを使っていました。でも1回で分けることができませんでした。Samplet があれば1回で分けられるのではないか?なんとか 30 g を1回で分けたい!そう思うようになりました。
チャージを時短する方法はないかと考えていたところ、過去に日本人の方がラボに持ち込んでいた桐山ロートを見つけました。桐山ロートだと透明で様子が見えるのと、中央一点しか穴が開いていないので吸引箇所が決まっているということから、これなら上手くいくのではないかと思いました。
代替としてブフナー漏斗がありますが、点々なので吸引力は落ちてくるのと、どこから落ちてくるか分からないですね。Samplet と桐山ロートのサイズはピッタリじゃなくても大丈夫です。桐山ロートは穴が一つの一点吸引なので、多少大きな桐山ロートで問題ありません。
― 最後に、バイオタージを使ってみていいところがあれば教えてください。
ポンコツさん:
とにかく早いのがいいですね。効率化はとても大事です。あとは、オープンカラムだと大スケールになってくると他のことに気を取られてサンプルをロスしやすいのですが、ロスしないという点もありがたいです。ずっとカラムに張り付いているわけにもいかないので、同時並行で他のことをしてミスをするということがあります。他のことをしていてもロスなく目的物が得られるのはいいですね。そういう人的ミスがないのはとてもメリットがあると感じています。
― お忙しい中ご参加いただきありがとうございました。
インタビュー実施:2022年9月
導入製品
『Biotage® Sfär Samplet®』
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/sfar_samplet/
充填剤封入済の小型のサンプル注入カートリッジ。
バイオタージのフラッシュカートリッジ Sfär Duo シリーズに使用可能。
多様なサンプルのカラムチャージを補助してくれる便利アイテム。ガードカラムとしてもご利用いただけます。