【vol.22】等電点を利用したペプチド精製での移動相 pH の条件検討

Biotage Japan ペプチドブログ vol.22

July 22, 2020
Elizabeth Denton

 

 

等電点(pI)は、すべてのペプチド(およびその他の化合物)の物理的特性であり、これらの化合物を取り扱う際に経験する多くの問題の原因となる可能性があります。等電点を確認することで、凝集性、溶解性などを予見でき、化合物の取り扱いを容易にするための条件を得られるかもしれません。

 

今回の投稿では、ペプチドの精製方法を改善する指針の一つとして、等電点をどのように利用できるかを紹介します。

 

合成したペプチドは、精製が難しい化合物の一つです。不純物が目的物と類似していることが多く、クロマトグラフィーによる分離が難しく、時間がかかることが予想されます。しかし、ペプチドとその不純物は、等電点(pI)の違いを識別することで、クロマトグラフィーにおいて分離することができます。

 

これまでのブログで、等電点をペプチド精製に活用したこともあり、このときは特に 酸性 または 塩基性 の移動相添加剤の選択による影響について焦点を当てました。異なる移動相添加剤を使用した後、私は、ペプチドの等電点と添加剤を使用した pH の緩衝溶媒を使用したら精製を改善できるかもしれない、と考えるようになりました。

 

この疑問を解決するために、私は BCL-2 ファミリータンパク質 BAX に結合するBID ペプチドの短い誘導体を、マイクロウェーブ加熱できるペプチド合成装置である Biotage® Initiator+ Alstra™ を用いて、合成条件の最適化はせず、標準的な条件で合成を行いました(図 1)。

BID ペプチドの粗分析 HPLC のクロマトグラム

図 1: BID ペプチドの粗分析 HPLC のクロマトグラム。目的の生成物ピークとその付近に不純物ピークが検出されています。

幸いなことに、私の合成条件の最適化が不十分だったため、標準的なフラッシュクロマトグラフィー精製では、目的物と分離が難しい不純物がわずかに存在することがわかりました。電荷と pH の関係を見ると、電荷の状態は溶液の pH によって劇的に変化しますが、中性の pH ではほとんど中性であることがわかりました(図 2)。

目的物である BID 誘導体ペプチドの電荷と pH の関係

図 2: 目的物である BID 誘導体ペプチドの電荷と pH の関係を表示。赤=pH 2(ギ酸)、オレンジ=pH 3.4(ギ酸アンモニウム)、緑=pH 7.4(炭酸水素アンモニウム)、青=pH 10(水酸化アンモニウム)のように、逆相ペプチド精製時によく使用されている pH 値を色分けして示しています。

当初の仮説を検証するために、10 mM、20 mM、50 mM のいずれかの pH7.4 の炭酸水素アンモニウムを使って、このペプチドを精製することにしました(図 3)。この時の pH はペプチドの等電点からわずか 0.4 pH 単位しか離れていないので、精製中、ペプチドはほぼ中性になっていると予想していますが、移動相とのプロトン交換が急速に進み、精製効率が損なわれる可能性があります。

BID ペプチドの精製

図 3: 10 mM 炭酸水素アンモニウム、pH 7.4 を移動相添加剤として使用した BID ペプチドの精製を示します。

まず、この図3のような条件で精製が行うことはありません。等電点に近い移動相の pH を用いると、ペプチドが中性、つまりクロマトグラフィーでいうところの極めて親油性の高い環境が作り出されます。その結果、有機溶媒の比率を高く(90%)して数カラムボリューム通液しないとペプチドがカラムから溶出されませんでした。ここで重要なのは、この精製では移動相の有機溶媒がアセトニトリルではなくメタノールで実施していました。これは設定した炭酸水素アンモニウム濃度ではアセトニトリルに溶けなかったため、通常のクロマトグラフィー精製とは異なる結果が得られました。ただし、アセトニトリルを用いて精製していたとしても、この結果は大きく変わらないと考えています。

 

上記以外にも 2 つ(30 mM、50 mM)の炭酸水素アンモニウム濃度で精製を実施しましたが、結果は変わりませんでした(データは示していません)。むしろ、図3で明らかになった 3 つの「ピーク」がさらにブロードし、この条件での精製は失敗しました。

 

等電点近い条件で精製を考えた時点で、精製が上手くいかない可能性を感じていましたが、実践することによって一つの結果が得られたことはよかったと思います。結論としては、ペプチドの精製は等電点に近い pH(あるいはペプチドが中性に近い状態になる pH の範囲)で行わないことです。目的の生成物と他の成分との分離の問題だけでなく、カラムからペプチドを回収するのに苦労することになります。理想的には、精製のためにペプチドが完全にプロトン化または脱プロトン化されるように、ペプチドの等電点から少なくとも 2 pH 単位離れた pH を選択する必要があります。

 

ペプチドが逆相カートリッジへ過剰に保持されたのは、他にどのようなケースがありましたか?

 

このペプチドやその他のペプチドの精製に pH がどのように影響するかについて、ご興味がおありですか?詳しく知るには、リンク を参照してください。

日本語化:2022年7月
ウェブのみ一部修正:2024年8月
PDFファイルダウンロード(320KB, 2022年7月)

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