June 18, 2019
Elizabeth Denton
ペプチド合成完了後、レジンからペプチドを切断することになります。使用したアミノ酸に応じて適切な切り出し用 TFA カクテルを調整し、ペプチドの切り出し操作を行います。ペプチドをレジンから切り出し後はどのような操作を行っているのでしょうか。ほとんどペプチドケミストは、エーテル溶液を用いてペプチドを沈殿させ、凍結乾燥して精製に移ります。しかし、その方法が果たして唯一の選択肢なのでしょうか。今日の投稿では、合成したペプチドの安定性を損なうことなく、処理操作と時間、潜在的に存在する危険な試薬の使用を節約する戦略を紹介いたします。
ほとんどすべてのレジンからペプチドの切り出しのプロトコルは、「TFA 溶液に冷やしたエーテル溶液を添加してペプチドを沈殿させ、エーテル溶液を回収し、沈降したペプチド生成物を回収する」あるいはそれに似た方法であり、その後手に入れたペプチドを分析・同定します。この段階では、遊離した保護基、非常に短いペプチドの副生成物およびTFAカクテルのスカベンジャーと側鎖関連反応物が含まれており、目的のペプチドおよび関連する生成物を沈殿させることは、ペプチドの租精製として作用しています。
おそらく、長年にわたって進化してきた多くの異なるプロトコルがペプチドケミストによって生み出されておりますが、これが私たちの研究室で一般的に実施したステップになります。
ジエチルルエーテル:石油エーテルの50:50の混合溶液を10倍量(レジンに加えた TFA カクテルとの比較)加え、ペプチド切り出し溶液と共にドライアイス上で冷却するか、又は最低30分間冷却します。
注-これは私たちの研究室で考えて使用した混合溶液です。私自身は、ジエチルエーテルのみも使用しており、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)やシクロペンチルメチルエーテル(CPME)の使用も報告されています。
切り出されたペプチドの溶液を冷エーテル溶液に採取し、20~30分間ドライアイスに戻します。
ペプチド含有エーテル溶液を5000 rcmで5分間遠心分離します。
エーテル溶液を傾斜させます。
ペレットに入れたペプチドをドラフト内で少なくとも10分間乾燥させます。
ペレットを50%MeCN溶液で再懸濁した後凍結して、凍結乾燥します。
逆相 HPLC によりペプチドを精製するか、乾燥保存します。
これらのステップは問題なく機能しますが、ペプチドを得るまでの全体的なワークフローにかなりの時間がかかることは間違いありません。私は、アプリケーションケミストの時代に、私が取り組んでいた多くのペプチドの実験での一晩凍結乾燥のために何時間も待っている時間はありませんでした。それでは、別の戦略を考えることにしました。そして、新しい戦略を追求することによってどのような懸念が起こるかも含めて検討しました。
私が発見した極めて有用な戦略は、Biotage®V-10Touch Evaporation システムと、逆相フラッシュクロマトグラフィーによる精製になります。ペプチドの精製については必要があれば HPLC による精製を行いました。V-10Touch は、非常に速い回転速度(約6000rpms)により、標準バイアルの内側に表面積が多いシリンダーの薄膜を形成することが出来ます。円柱が形成されたら、減圧させ、穏やかな加熱を組み合わせて溶媒を速やかに濃縮させます。DMSO や DMF などの高沸点溶媒も短時間で濃縮することが出来ます。重要なことは、V-10Touch は濃縮された TFA の腐食性に耐性があり、レジンからペプチドを切り出した TFA カクテルを数分で完全に濃縮することができました(約5分間、5mLの TFA カクテル:水と TIPS を含みます)。
V10Touch で濃縮後のバイアルは図1のように内側に粗ペプチドの膜を形成しています。もし、私がこの後にペプチド精製を実施するつもりでペプチドを保存する場合は、通常はこの粗ペプチドに50%MeCN溶液を加えて溶解して洗い流し、TFA が除去されたことを確認します。再度 V-10Touch を用いて水性溶媒を数分間で濃縮させます。50%MeCN溶液で数回洗浄した後、粗ペプチドを通常通り-20℃で保存します。この過程には合計約20分を要しますが、これは、私がペプチドをジエチルエーテルで TFA 溶液から租ペプチドを処理する、遠心分離用のドライアイスバケツに準備を要する時間よりも短いかも知れません。
図 1: Biotage V-10Touch Evaporation system を用いた濃縮前(左)と濃縮後(右)の TFA カクテルを含むペプチド。
しかし、V-10Touch を使用することで精製までの過程をどれだけ負担が減るかについてはまだ確認できていません。これから、私は租ペプチドの精製までの過程の改善に取り組みました。つまり、V-10Touch を利用して、レジンから切り出した租ペプチドを含む TFA 溶液をそのまま濃縮し、租ペプチドを短時間で得ることが出来ました。エーテル沈殿に関わる時間や手間がかかる操作、凍結乾燥なども省略することが出来ました。回収した粗ペプチドからおおよその重量を測定し、カラムにチャージできるように、ほとんどのペプチドを容易に溶解できる DMSO で試料全体を溶かしました。
では、この戦略にはどのような懸念があるのでしょうか。結論を言うと粗純度であり、図2に示します。側鎖の保護基は基本的に揮発性ではなく、粗ペプチドとともに残留しています。しかしながら、逆相フラッシュクロマトグラフィーではサンプル負荷量が比較的大きいため、側鎖の保護基の残渣を含んだチャージ量でも大きな懸念にフラッシュカラムの分離能への懸念は小さいかと思います。より重要なことには、残留保護基は、一般的には、C18 のよって高度に保持されるため、本質的に目的のペプチド生成物との溶出のリスクはほとんどありません。
図 2: GLP-1(1-37)の分析用 HPLC クロマトグラフィー、エーテル沈殿(黒色)、あるいは Biotage V-10Touch Evaporation System(赤色)で濃縮。V-10Touch のクロマトグラムにおける唯一の有意差は、分子量400Da未満の化合物を含むの不純物ピークです。
V-10Touch を利用することで、レジンからペプチドを切り出した TFA 溶液をエーテル沈殿せず、そのまま濃縮させる方法は、粗ペプチドの凍結乾燥の必要性をなくし、レジンからペプチドを切断してからの作業量を劇的に減らして精製まで進めることを可能にしました。これは合成後から目的のペプチドを得るまでの作業時間を著しく短縮させました。
ペプチド合成後のワークフローを短縮するステップを見つけることができましたか?
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日本語化:2020年9月
ウェブのみ一部修正:2024年8月
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