【vol.5】マイクロウェーブ加熱 - 効率よくペプチドを得るために

Biotage Japan ペプチドブログ vol.5

March 14, 2017
Elizabeth Denton

 

歴史的に、固相ペプチド合成は室温で行われ、目的のペプチドの収率や純度を保証するためには長い反応時間とダブルカップリングが要求されました。しかし、最近では、リアクターバイアルを加熱する 異なる戦略で、反応効率を改善し、ペプチドの純度を向上させる可能性が出てきました。

 

今日の投稿では、マイクロウェーブ加熱により、合成するペプチドの純度を改善できることを実証します。

 

温度と反応速度の関係は1889年のアレニウスによって同定され、下記の式によって定義されました。私たちの多くは、有機実験室に配属されて1年目はいやになるほどでこの方程式を用いてきましたが、「どのくらい加熱すればいいの?」との疑問が生じました。伝統的に、ホットプレートとオイルバスは、有機合成化学者の道具として合成反応に利用されていました。有機化学者は、1980年代半ばにマイクロウェーブ加熱による実験を開始し、従来の加熱方法と比較した場合、ほとんどの反応で反応時間が大幅に減少し、反応効率が向上することを見出しました。これは、制御されたマイクロウェーブによって迅速に、均一に溶媒が加熱されたためです。

biotage-japan-peptide_blog05
02_heating-profiles-1

図 1:マイクロウェーブ(左)対オイルバスヒーティング(右)の反射温度勾配。マイクロウェーブはマイクロウェーブを溶媒へ直接照射して試料の液量全体を素早く加熱し、一方、オイルバスは試料のバイアル周辺から接触させて加熱します。

固相ペプチド合成におけるマイクロウェーブ加熱は1990年代初頭から導入され、以後さらに 最適化されていき、ペプチド研究者内で急速に受け入れられるようになりました。

 

カップリングステップ中にマイクロウェーブ加熱を利用するときに達成できる違いを強調するために、一般的に 18Aと呼ばれる両親媒性ペプチドを合成しました。この比較のために、合成スケール、カップリング試薬、当量数を一定に保ち、反応温度と時間のみを変化させました。

 

私はまず、Biotage® Initiator+Alstra を用いて室温で18Aを合成しました(図2)。室温合成ではアミノ酸の導入時にすべてダブルカップリングすることは一般的ですが、私はより正確な比較のためにこの配列すべてのアミノ酸導入をシングルカップリングすることにしました。一般的な室温合成でのカップリング反応は60分間になります。これは室温合成では比較的一般的な反応時間になります。

03_crude-18A-HPLC

図 2: シングルカップリングを用いて室温合成した租ペプチド18Aの分析HPLCクロマトグラム

HPLCでのUVスペクトルを分析すると、合成した租ペプチドの純度は59.5%とになりました。シングルカップリングにもかかわらず、この合成は当初予想していたよりも良い結果が得られていることがわかりました。

 

次に、図3の Biotage Initiator+Alstra とのカップリング反応のためにマイクロウェーブ加熱を用いて18Aを合成しました。カップリング反応は75ºCで5分間行いました。両方のペプチド合成において、私はFmoc脱保護反応を室温で行いました。この反応では温度に注意する必要があります。これは脱保護反応で加熱すれば合成の純度に悪影響を及ぼす可能性のある副反応が発生することがあります。

04_MW-18A-crude

図 3: マイクロウェーブ加熱によるシングルカップリングで合成した粗ペプチド18Aの分析HPLCクロマトグラム

2つのクロマトグラムを目視で調べみると、マイクロウェーブ加熱で合成されたペプチドは室温よりも純度が高いことがはっきりとわかります。私はピークを積分し、このペプチドの純度は約67%になりました。このプロジェクトを始めたときに予想していたよりも、純度の差はそれほど大きくありませんでした。重要なことは、室温で合成された粗ペプチド混合物中に存在する副生成物や合成時の残渣はマイクロウェーブ加熱で合成されたペプチド混合物中には少量しか存在しないことであり、精製をやりやすくできることです。

 

室温合成が適切な場合があるのは確かですが、例えばペプチドライブラリーでの合成には、可能であればマイクロウェーブ加熱の使用を推奨します。マイクロウェーブ加熱による合成は、必要な合成時間(室温36時間⇒マイクロウェーブ加熱15時間)を著しく短縮することに加えて、長いペプチド(45アミノ酸以上)リン酸ペプチドおよび糖ペプチドのようなペプチドは室温合成ではこれまで到達できなかった純度での合成も可能にしたためです。

粗ペプチドの純度を改善するためにどのような加熱条件で行いましたか?

 

ペプチドの精製についても学びたい方はホワイトペーパーをご覧ください。

日本語化:2020年9月
ウェブのみ一部修正:2024年8月
PDFファイルダウンロード(380KB, 2020年9月)

おすすめブログ»