Sep 25, 2019
Elizabeth Denton
最近、多様な用途を持つペプチドの有用性を探る研究グループが増えています。ペプチドは受託合成により適切な価格で簡単に購入できるようになっていますが、多くのグループが内部でペプチド合成を実施し続けています。さらに多くのグループがペプチド研究に加わるにつれて、私はしばしばペプチド合成の基本について疑問を呈します。
今日の投稿では、固相合成の歴史を紹介し、ペプチド化学におけるいくつかの議題について焦点を当てたいと思います。
アミド縮合反応における化学と試薬は何十年も前から存在し、世界中の有機化学者の間で大きな効果を上げてきました。20世紀半ばには生理活性ペプチドへの関心が高まりましたが、それに伴い生理活性ペプチド類似体合成の必要性が増しました。「標準的な」液相合成による合成戦略は十分ではないことがすぐに明らかになりました。
液相ペプチド合成法は、一般的には非常に困難で手間がかかります。それはカップリングの反応時間が長く、さらに各々のアミノ酸カップリング間で再結晶化またはカラムクロマトグラフィーによる精製が必要となります。ブルース・メリーフィールドはブラジキニン(9アミノ酸)の類似体を数種類作った後、液相ペプチド合成法に替わる方法を模索しました。そして、固相ペプチド合成法の開発に着手し、彼は後にノーベル化学賞を受賞しました。メリーフィールドの戦略の美しさは、アミド試薬などを固相(レジン)状に固定されたペプチド鎖の末端の反応サイトと反応させた後、単純な濾過ステップによって除去することができ、ペプチド合成のスループットを改善したことです。
図1.固相上でペプチドを合成するための一般的なプロセス。保護基(PG)は、反応性の側鎖基から保護とN末端の保護基と存在します。その過程で保護基を脱保護し、保護基を持ったアミノ酸をカップリングしてペプチド鎖を伸長していきます。
メリーフィールドは試薬溶液の濾過操作を基にした戦略を実施するために、機能化された不溶性ポリマー担持体と保護基を組み合わせ、図1のように各々のアミノ酸を構成単位として反復付加することを可能にしました。このプロセスが成功するためには2種類の保護基が必要でした:1)N末端から遊離できるアミノ基の保護基、2)頻繁に実施するN末端脱保護条件に耐性で、レジンから最終ペプチドを遊離する条件に対して簡単に遊離することができる側鎖の保護基になります。
これらの条件を念頭に置き、ブルースは現在固相Boc合成法として知られている戦略を基に開発に取り組みました。この方法では、図2で示したようにN末端アミンはBoc基で保護され、中濃度(通常25~50%)のトリフルオロ酢酸(TFA)で脱保護できます。アミノ酸の機能性側鎖は、繰り返されるTFA処理に対して安定な構造を持つ保護基で保護されますが、ペプチドをレジンから切り出すカクテルでの処理の間に同時に遊離されます。この固相Boc法では、最終的なペプチドは、元来フッ化水素酸(HF)を用いてレジンから切断されます。他の切り出し条件はHFの使用に伴う安全性への懸念から確認されています。Bocケミストリーの原則は簡単です:固相からの保護基およびペプチド全体の切断を説明します。アミノ基の保護基は少し濃度の低い酸性条件で脱保護し、レジンからのペプチド全体的な開裂は最も強い酸性条件に基づいて実施されます。
図2.トリフルオロ酢酸(TFA)を用いたペプチド鎖のN末端からのBoc保護基の脱保護機構
メリーフィールドがBocの固相ペプチド合成(SPPS)戦略を導入しAtherton とSheppard、Louis Carpino によって開拓された化学を用いた数年後に、アミノ基へFmoc保護基を導入した固相ペプチド合成へ適用しました。酸分解性を利用するのではなく、Fmoc基に基づいた化学は塩基性と酸性の反応性を組み合わせています(図3)。
図3. ピペリジンを用いたペプチド鎖のN末端からのFmoc保護基の脱保護機構
Fmoc保護基に基づいた固相ペプチド合成は、ペプチド合成への容易にアプローチできることで多くの化学者に革命をもたらしました。第一に、そしておそらく最も重要なことは、Fmoc法においてルーチンに使用される試薬は、Boc法において使用される試薬よりもはるかに大きな安全性を示したことです。Fmoc法では中濃度に濃縮されたTFA溶液の取扱いおよびHFの取扱いは排除されています。この改良された安全性は、経験の浅い化学者が比較的容易に取り組め、かつペプチド合成を成功させることを可能にしました。
第二に、酸と塩基の不安定性を利用した側鎖保護基の膨大な多様性の導入は好意的に受け取られています。Boc法と相対する新しいFmoc法戦略の導入は、伝統的なBoc法では困難であるか、または不可能でさえあるレジン上での反応および修飾を可能にします。これは、現在Fmoc法を用いて日常的に合成されているペプチドは複雑になっているため、レジン上での修飾できる点はさらに重要度を増しています。
あなたはどのペプチド合成戦略を好みますか?
ペプチド精製のアプローチについても知りたい方は、以下のホワイトペーパーをチェックしてみてください。
日本語化:2020年9月
ウェブのみ一部修正:2024年8月
PDFファイルダウンロード(330KB, 2020年9月)