【vol.14】複雑で極性のあるアミド反応混合物をどのように精製すればよいのか?

有機化学ブログ【vol.14】

August 12, 2020
Bob Bickler

 

合成化学者は、新規の化合物を作る方法を常に模索しています 。その過程で、試薬、溶媒、反応条件などを検討し、さまざまな反応生成物や副生成物が生じます 。

 

反応生成物の精製には、多くの場合、フラッシュクロマトグラフィーが使用され、分析、化合物の同定、合成収率の決定などが行われます。合成がうまくいけば高純度の生成物が得られることもありますが、逆に多くの化合物が混ざって精製が困難になることもあります。

 

有機化学の反応は、どんなに単純なものでも、複雑な混合物になることがあります。私が最近遭遇したのは、有機酸(ニコチン酸)と有機塩基(ベンジルアミン)を反応させてアミドを生成するという、一見単純な反応でした(図 1)

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図 1. ニコチン酸とベジルアミを 200℃の酢酸エチル中で 10分間反応させると、図のようなアミドが生成されます。

ニコチン酸の溶解度は低いですが、反応溶媒として酢酸エチルを使用しました。ただし、200°Cで反応させると、ニコチン酸は可溶化してベンジルアミンと反応します。

 

合成後、冷却すると結晶ができました。結晶をろ過し,酢酸エチルで洗浄した後, フラッシュマスシステムの Biotage® Isolera Dalton 2000で分析したところ,生成物( M+H 270)と過剰なニコチン尿酸(M+H 181)の両方が含まれており,結晶の総質量は 43mgでした。

 

母液(明るい黄色)を様々なヘキサン/酢酸エチル比でTLC分析し ましたが、目的物はベースラインからほとんど動かなかったため、精製には逆相を使用することにしました( 10CVで 25-75%のメタノールリニアグラジエント)。12gの Biotage® Sfär C18 カラムと高速自動フラッシュ精製システム Biotage® Selekt を使用しました。化合物は保持されましたが、分離は理想的とは言えません(図 2)。

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図 2. 反応混合物の逆相フラッシュ精製 。生成物 (黄色)は主要な副生成物から部分的にし離されていません 。

グラジエント条件の最適化 やさまざまな溶媒の検討に時間をかけるよりも、ドライローディングに イオン交換 メディア ( ISOLUTE® SCX-2 )を 試すことにしました。なぜ SCXなのか? アミド生成物は理論的には中性で電荷を帯びていませんが、新たに追加されたアミン官能基は、アニオン性官能基(プロピルスルホン酸)に引き付けられるはずです。もしそうであれば、母液を SCXメディアと混合して乾燥させることで、「新しい」アミドの窒素(ベンジルアミン反応による)と SCXのスルホン酸が強制的に反応し、後で塩基性溶媒でリリースできるように生成物をトラップすることができるはずです。もしこれがうまくいけば、私の生成物は SCXに吸着し、不純物は吸着しないはずです。

 

最初にスモールスケールで実験を行ったところ、図 3に示すように、1%のNH4OH を含むメタノールで目的物が溶出し、この理論が成り立つことがわかりました。

14_03_nicotinuric_acid_benzyl_amine_SCX_small_scale

図 3. 強陽イオン交換媒体( SCX )を使った反応混合物の逆相フラッシュ精製。

しかし、フラクション14(図 3のピンクのピーク)を分析したところ、目的の化合物だけでなく、その他の副生成物も結合/放出されていました。主要な不純物が除去されているので問題はなく、元の 25-75%のメタノールグラジエントを用いて再精製すれば、他の副生成物と目的物が分離されるはずです 。

 

生成物のフラクション #14 を C18 の Samplet® カートリッジ のメディア上で乾燥させ、元の方法で再精製したところ、 目的物と塩基性副生成物が完全に分離されました(図 4)。

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図 4. SCX で再精製したフラクションは、初期に溶出不純物がすべて除去されてい ます 。

この成功を受けて、残りの母液(約 1g)を 5gの SCXメディアと 前と同じC18カラムを用いて精製しました。この負荷は12gの C18カラムでは過剰ですが、 SCXメディアを使用して 目的物 を「 補足 」して濃縮し、主要な不純物がかなり早い段階で溶出したため、負荷を最大にすることができたと考えています。

 

クロマトグラフィーは厄介ですが、最終的には成功した精製を示し、主要な副産物の汚染物質が早期に溶出し、私の生成物はフラクション15〜17に塩基での洗浄で溶出しました(図 5)。

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図 5. 5g の ISOLUTE SCX-2 を用いて反応混合物ラージスケルでフラッシュ精製 。SCX-2 は生成物(大きなピンクのピーク)を捕捉します 。

フラクション15-17 を乾燥させると、330mg の黄色の固体が得られ、これを再精製すると、 目的物フラクション(フラクション5-7)が無色の、 よりきれいな目的物のクロマトグラムが得られました(図6)。

14_06_nicotinuric_acid_benzyl_amine_large_scale_repurification

図6. SCXで再精製したフラクションでは、主要な反応副生成物が完全に除去されているが、他の副生成物がいくつか存在していました。目的の反応生成物はピンク色のピークで、回収容器では無色でした。

フラクション 6 を蒸発させると、200 mg の純粋な生成物が得られました(図 7)。

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図7.  図 6 のフラクション 6 からの乾燥した反応生成物。

複雑で精製が困難な反応混合物の精製は、機能化されたドライロードメディアを使用することで改善できることが よくあります 。 以前 、同じ SCXメディアを使って、反応混合物から アミンの副生成物をスカベンジ(除去)する方法 をご紹介しました。

 

フラッシュクロマトグラフィーの詳細については、下記ボタンからホワイトペーパーをご覧ください。

日本語化:2021年7月
ウェブのみ一部修正:2024年9月
PDFファイルダウンロード(856KB, 2021年7月)

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