Advancing into immuno-oncology
byondis (http://www.byondis.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
March 2022, ISSN 2730-6283 (online)
ライフサイエンスに関連するトピックを毎月お届け致します。6回目となる今月は、進化する「抗体医薬」をテーマに免疫細胞が「がん細胞」を食べやすいようにトッピングする抗体を紹介します。今回のおはなしの中心は *CD47-SIRPα(signal-regulatory protein α)シグナル伝達経路を阻害することで「do not eat me」という「がん細胞」からのメッセージを打ち消してしまう抗体医薬の作用メカニズムについてです。
*CD47 は細胞膜に局在する糖タンパク質で IAP (integrin-associated protein) として同定され AML (acute myeloid leukemia) や膀胱がんなどで過剰発現していることが知られている。CD47 はシグナル伝達経路をコントロールするタンパク質 SIRPα に結合する (CD47-SIRPα axis) ことで貪食されないよう(食べられないよう)に回避させる。CD47 の機能を阻害する抗体を利用すると骨髄系細胞由来の免疫細胞による「がん細胞」を食べる能力が向上することが知られている。それゆえに CD47-SIRPα シグナル伝達経路は、自然免疫系のチェックポイントの役割をになうと考えられている。
PD-1/PD-L1 や CTLA-4 を阻害する免疫チェックポイント阻害薬が治療で使用されているように、昨今では免疫細胞にはたらきかける「がん治療薬」の開発がすすんでいます。ここから派生したものとして **phagocyte を利用した「がん免疫治療法」にも注目があつまっています。
**わたしたちの体に侵入した病原体などを食べ、始末する役割をになう骨髄系由来の免疫細胞。「がん細胞」や老化した細胞なども食べ、わたしたちの体から不要な細胞をとり除いてくれる。
Phagocyte に免疫チェックポイント分子との関係があることは数十年前から知られていましたが、近年のバイオ医薬品の誕生により脚光をふたたび浴びるようになりました。SIRPα は阻害作用をもつ免疫レセプターで骨髄系由来の免疫細胞の表面にみられます。その役割として知られているのは、自然免疫システムをブロックすることで「がん細胞」が、マクロファージや樹状細胞に食べられないよう「ふるまう」ことを可能にします。Phagocyte の SIRPα とターゲットとなる「がん細胞」の CD47 が結合すると phagocyte が「がん細胞」を食べにくくなることが知られています。この抑制メカニズムから「do not eat me」 シグナル伝達経路として知られています。ここで浮かんだのは CD47 と SIRPα の結合をブロックすれば phagocyte はターゲットを「食べられるようになるのでは…」というアイディアです(図1)。
オランダの Nijmegen に拠点を構える byondis B.V. は CD47-SIRPα シグナル伝達経路を阻害するため、SIRPα に特異的なモノクローナル抗体 BYON4228 を開発しました。この抗体の良いところは T-cell での発現がみられる SIRPγ を認識しないので、課題となっていた T-cell の活性を妨げ弱めることはありません(図2)。また CD47 を介するその他の機能を阻害することもありません。その他の抗体医薬とのコンビネーションを可能とし、相乗効果が期待されています。さらに pan-allelic 抗体のため、知られている全ての SIRPα variant を認識することができるので、患者さんに多大なるベネフィットをもたらすことができます。
図1: Advancing into immuno-oncology
byondis (http://www.byondis.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
March 2022, ISSN 2730-6283 (online)
Figure 1.より抜粋
図1の解説;Byondis’ lead cancer immunotherapeutic, BYON4228, in action.
「がん細胞」をターゲットとする mAb(モノクローナル抗体)により惹きよせられたphagocyteの様子(左)。CD47-SIRPα シグナル伝達経路が適切にはたらいていると「do not eat me」というメッセージを「がん細胞」が発信し、phagocyte からの攻撃を未然に防ぐことができる(中央)。この経路を BYON4228 で阻害すると「がん細胞」はメッセージを発信することができなくなり、phagocyte により始末される(右)。
動画はこちらから
https://www.byondis.com/what-we-do/science-innovation/immuno-oncology
図2:ESMO Immuno-Oncology 2021
Poster No. 129
Figure 3.より抜粋
図2の解説;BYON4228 lacks binding to T cell-expressed SIRPγ.
T-cell で発現する SIRPγ に特異的な抗体である SIRPAB-11 は SIRPγ に良く結合する。しかしながら SIRPα に特異的な抗体である BYON4228 には、その特性がみられない。
(A)抗体;BYON4228、1H9(non-targeting isotype control)と SIRPAB-11 または、アイソタイプ・コントロールを利用した細胞への結合実験。細胞は健常者の血液から赤血球を溶解したのちに CD3+ 細胞を回収したものを利用(n=12)。
(B)SIRPγ を発現する ExpiCHO-S 細胞への結合実験。
BYON4228 のライセンスは byondis にありますが、その他の抗体医薬とのコンビネーションについて「相乗効果」を検証していくため、他社とのパートナーシップをすすめています。
新たな抗体医薬を開発するため、世界中の研究員たちは莫大な数の…、
① 抗体の精製
② in vitro/vivo assay
③ 抗体のクオリティ・チェック
上記の3つを継続的に「ひとつひとつ」丹念におこなう必要があります。特に抗体の精製 → クオリティ評価 → 動物や人体への投与が大事になります…、
これらを「ひとつずつ」マニュアルで検証していくと莫大な労力、時間や資金を要します。それゆえに「同じ条件」で「再現性高く」これらのステップをおこなうには、ロボットによるオートメーションが求められてくるでしょう。
このような要求に応えられるよう、わたしたち Biotage®はロボットによる自動化に適した製品を数おおく提供しています。PhyTip®カラムはタンパク質、抗体や peptide の精製に適した製品であり、さまざまなアプリケーションに対応しているので、主要なリキッド・ハンドラーに搭載することで自動での精製を手助けします。PhyTip®カラムは「Lab automation」を推しすすめ、研究者をルーティンから解放することで「貴重な時間」を提供しています。
参考文献
- Advancing into immuno-oncology
byondis (http://www.byondis.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
March 2022, ISSN 2730-6283 (online) - ESMO Immuno-Oncology 2021
Poster No. 129