ライフサイエンスブログ vol.2

EVADER-stealth mode, next-generation AAV-based gene therapy vectors
CHAMELEON BIOSCIENCES INC. (www.chameleonbiosci.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)

 

ライフサイエンスに関連するトピックを毎月お届け致します。2回目となる今月は「進化する医薬」をテーマに遺伝子治療の可能性について紹介したいと思います。今回のおはなしは「忍者」のごとく免疫システムを掻い潜る AAV(アデノ随伴ウィルス)のメカニズムについてです。

 

従来の AAV を利用したアプリケーションでは、アデノ・ウイルスなどに比べると免疫原性は低いものの、すでに中和抗体をもつ患者さん*への投与は難しいのが現状です。さらに投与した AAV に対するホストの抗体が現れることにより、2回目以降の投与は極めて困難であると云われています。

 

*AAV は約 80 %の人に存在しているといわれ、10 歳の時点で世界の人口の約 60 %が AAV に対する中和抗体をもつ。

 

CHAMELEON BIOSCIENCES INC.が開発中の次世代 AAV はホストの免疫応答を最小限に抑え、投薬をくり返すことができるので、より良い効果が期待できます。この EVADER(図1参照)とよばれる技術は、日頃から利用されている AAV に適用できるアプリケーションなので CHAMELEON BIOSCIENCES INC.は、血友病**や網膜の細胞をターゲットとした新たな治療法をうみ出すためのパートナーを探し、コラボレーションによる研究推進を考えています。

 

**遺伝性疾患であり、罹患者は血餅形成に必要な特定のタンパク質を十分につくることができない。

EVADER-stealth mode

図1: EVADER-stealth mode, next-generation AAV-based gene therapy vectors
CHAMELEON BIOSCIENCES INC. (www.chameleonbiosci.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
Fig. 1 | EVADER platform technologyより

図1の解説;EVADER platform technology

CHAMELEON BIOSCIENCES INC.の EVADER 技術は、既存の AAV を脂質二重膜のエンベロープで包み、そこに免疫チェック・ポイントを阻害しうる分子を埋め込みました。この技術により、従来の AAV が直面する「免疫システムの課題」を克服することが期待されています。

AAV は遺伝子を届ける「デリバリー・システム」として、これまでに高いポテンシャルを示してきました。それゆえに遺伝子治療の分野において、治療手段の一つとして高く評価されるようになりました。

 

近年の AAV は宿主ゲノムに挿入されないよう改変されていますが、感染した細胞内の染色体外にて長期存続することができます。AAV は非分裂細胞において長期間、安定した遺伝子発現をみせるだけでなく、ホストの免疫応答にもマイルドです。これらの利点はAAVを遺伝子治療に利用するうえで好ましい特性です。

 

AAV をベースとした遺伝子治療は、おおくの成功を収め画期的な治療法ではありますが、より多くの病気にアプローチするにはクリアすべき課題があります。そのうちのひとつが AAV とホストの免疫応答が繰り広げる duel です。CHAMELEON BIOSCIENCES INC.が開発を手がける EVADER 技術は、従来の AAV を利用した遺伝子治療の課題をクリアできうる以下に記す3つのアドバンテージを有しています…、

 

  1. AAV への「免疫」に対する抵抗性をもつこと。
  2. 免疫システムを刺激しにくい「低免疫原性」であること。
  3. くり返し投与が可能なため、1回の投与が少量ですむこと。

 

従来の AAV を脂質二重膜のエンベロープで包むことで、すでにホストに存在する中和抗体への「抵抗性」をもちます。それゆえに投与をくり返すことができ「遺伝子デリバリー」の効率を高められます。さらにエンベロープに B 細胞やT細胞の活性を抑える免疫チェック・ポイント阻害分子を埋め込むことで、投与後に発動する急性毒性の低減も期待できます(図1参照)。

 

現在の血友病Bの治療は予防的な処置に留まっており、そのアプローチは凝固に必要な FIX(factor IX)をリコンビナント・タンパク質として患者さんへ投与するものです。しかしながら FIX の作用時間が短いことが課題となっています。それゆえに、くり返し投与する必要があるため、体内で FIX に対する中和抗体が産生されてしまいます。これが引き起こす「免疫による抵抗性」が現在の治療法のおおきな障害となっているのが現状です。

 

臨床試験から AAV を利用した遺伝子治療は、血友病 B に対して高いポテンシャルを示しています。その理由としてあげられるのは AAV の組織への指向性です。FIX は肝細胞での発現が多いことにくわえ、AAV8(セロタイプ8)は肝臓に対して高い特異性を示すことからも期待されています。

 

この遺伝子治療は成功したように思えましたが、あらたな課題として浮上したのが「発現レベル」です。FIXが多すぎるとT細胞を過剰に活性化してしまい、肝細胞の「死」を導くことがわかってきました。とりわけ既存の血友病Bの遺伝子治療は、複数回の投与を要するため、子供への適用の認可は下りていませんでした。血友病 B を罹患している成長期の子供では、遺伝子治療の効果は期待できないと考えられてきたからです。その理由としてあげられるのは、この子供たちの新たな肝臓組織では FIX を発現しないからです。それゆえに新たな肝組織で FIX を発現させるため、くり返し投与を続ける必要があります。先に述べたように「くり返しの投与」はホストの抗体の出現により、効果が期待できません。これらの課題をクリアするため、EVADER の技術に注目が集まりはじめました。

 

AAV8 EVADER/FIX を利用し細胞試験をおこなったところ、T細胞の活性化を従来の AAV8 を利用したものより減らすことに成功しました。さらにマウスにおいても AAV8 EVADER/FIX は適応免疫を軽減させ、B 細胞の活性化を抑えることで、中和抗体の産生を激減させました。最も注目すべき点は AAV8 EVADER/FIX と従来の AAV8 で 2 回目の投与による FIX の産生量を比較した結果です。従来の AAV8 では 1 回目と 2 回目の投与では顕著な差はみられませんでした。しかしながらAAV8 EVADER/FIX では、2 回目の投与をおこなうと 1 回目にくらべ約2倍量のFIXの産生が確認されました。(図 2 参照)。

EVADER human FIX production

図2: EVADER-stealth mode, next-generation AAV-based gene therapy vectors
CHAMELEON BIOSCIENCES INC. (www.chameleonbiosci.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
Fig. 2 | EVADER human FIX production is titratable for two dosesより

図2の解説;EVADER human FIX production is titratable for two doses

マウスを利用した実験において AAV8 EVADER/FIX は、中和抗体の産生を減らすことに成功しました。最も注目すべき点は、AAV8 EVADER/FIX の 2 回目の投与による FIX の産生量です。1 回目にくらべ約 2 倍量の FIX が検出されました。しかしながら、従来の AAV8 を利用した実験においては、1 回目と 2 回目で顕著な差がみられませんでした。

CHAMELEON BIOSCIENCES INC.は、血友病や網膜の細胞をターゲットとした新たな治療法をうみ出すためのパートナーを探し、コラボレーションによる研究を推進しています。

AAV を利用し新たな遺伝子治療薬を開発するため、莫大な数の候補 AAV を精製し、それに効果があるかを「ひとつずつ」検証する work-flow には莫大な労力、時間や資金を要します。

それゆえに、small-scale でおおくの AAV を「同じ条件」で「再現性高く」精製する技術が求められてくるでしょう。

 

このような要求に応えられるよう、わたしたち Biotage®は、独自の技術 Dual Flow Chromatography を備えたピペット・チップ型の PhyTip®カラムに Thermo Fisher Scientific 社の AAVX レジンを搭載しました。これにより「吸引・吐出」のサイクル数や flow rate を自由自在にコントロールすることで AAV の精製に適した条件を探ることが容易になります。PhyTip®カラムを利用することで、以下に記す3つのことを簡潔に実現できるようになります。

 

  1. Capture → Wash → Elution の各種ステップの条件検討(最適化の模索)
  2. 機能的な AAV であるかを評価するための少量精製
  3. 各社リキッド・ハンドラーに装着することで、AAV 精製の high-throughput を自動化

 

ゲルろ過やイオン交換クロマトグラフィーと組みあわせることで work-flow の最適化を図れます。small-scale で多くのサンプルを取りあつかう研究員たちの頼もしい味方となるでしょう。

Biotage®︎ AAV PhyTip カラムは、あなたのAAVを利用した新たな遺伝子治療の製品開発のお手伝いをさせていただきます。

参考文献
EVADER-stealth mode, next-generation AAV-based gene therapy vectors
CHAMELEON BIOSCIENCES INC. (www.chameleonbiosci.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)

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