Biotage Japan ライフサイエンスブログ vol.1

KRAS4A directly regulates hexokinase 1
Nature volume 576, pages 482–486 (2019); Amendola, C.R, et al.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1832-9

 

ライフサイエンスに関連するトピックを毎月お届け致します。初回となる今月は、おおくのがんに関わる onco-KRAS が解糖系に及ぼす影響について紹介したいと思います。注目すべきは、メジャーな KRAS4B ではなく KRAS4A が今回のおはなしの中心であることです。

 

がん細胞は酸素が十分にある好気的な条件下においても ATP 産生の 60% を解糖系に依存していると云われています。通常の細胞がエネルギー源として活用する効率的な ATP 産生をあえてつかわず、回転は速いけれども非効率的な解糖系をベースにエネルギーを得ています。

 

「がん」と「代謝」といえば、わたしたちは Warburg effect について語る必要があります。

この現象は1世紀ほど前に O. Warburg により提唱され、Warburg effect として認知されています。がん細胞が大量の糖を消費することことから、今日では糖のとり込みを可視化し、がんの局在を診断するPETにも応用されています。それゆえに例外はありますが、生体内でもがんが Warburg effect を示しています。

 

Warburg effect の意義は解糖系の「副産物」として生体分子の合成材料(核酸や NADPH )を提供することにある、というのが昨今の理解です。しかしながら、がん細胞が好気的な条件下でも解糖系を利用する利点やメカニズムについての多くは、謎に包まれたままです。

 

Onco-KRAS がどのように代謝系の酵素を調節しているかという疑問には、おおくの課題が残されていました。Amendola, C.R たちは、解糖の初段回に関わる酵素と onco-KRAS の関係性を明らかにし 2019年に Nature に発表しました。内容は Hexokinase 1*が KRAS4A**の新しい標的であり、KRAS4A が細胞膜からミトコンドリアの外膜へ局在を変えることで Hexokinase 1 にダイレクトに結合し活性化するというものです。その結果、生体内においても糖のとり込みと解糖がすすみ腫瘍の形成が促進されることを示しました。

 

さまざまな「がん患者さん」から確認されている KRAS 変異型と Warburg effect を結びつけるインパクトの高い内容となっています。

 

*Hexokinase 1; Hexokinase 1 は解糖系の初段階の酵素です。その役割は細胞内にとり込まれた糖をリン酸化し、グルコース6-リン酸(G-6-P)を生成することです。

**KRAS; 細胞の増殖などをコントロールするタンパク質であり、GDP/GTP の結合により活性が厳密に制御されています。RAS の変異によるがんは約 85%が KRAS4B であり、恒常的 GTP 結合型となります。この変異は、おおくの「がん患者さん」でみられるため、創薬に向けおおくの研究が世界中で活発におこなわれています。

GTP 結合型が active form と云われ、下流のシグナル伝達経路を ON にします。KRAS は第 4番目の exon を使い分けることで 4A と 4B になります。この 2つの違いは C末端の hyper variable region とよばれる膜への局在に必要なモチーフに由来します。

KRAS4A directly regulates hexokinase 1

KRAS4A directly regulates hexokinase 1
Nature volume 576, pages 482–486 (2019)
Extended Data Fig.10 | Model of KRAS4A regulation of HK1より

KRAS4A の C末端の hyper variable region の一部が修飾されることで、KRAS4A は細胞膜からミトコンドリアの外膜に移行できるようになります。つづいて KRAS4A は、ミトコンドリアの外膜上に局在する Hexokinase 1 にダイレクトに結合し糖のとり込みと代謝をすすめます。

 

この論文では、免疫沈降などの生化学的手法を効果的に利用し、さまざまな Hexokinase 1 と KRAS4A の変異タンパク質を作製しています。その結果、解糖系におけるこれら相互作用のメカニズムを詳細に描くことに成功しています。それゆえに、small-scale で複数の変異タンパク質を「同じ条件」で「再現性高く」精製する技術が求められます。

 

このような要求に応えられるよう、わたしたち Biotage®は、独自の技術 Dual Flow Chromatography を備えたピペット・チップ型の PhyTip®カラムに各種レジンを搭載しました。これにより「吸引・吐出」のサイクル数や flow rate を自由自在にコントロールすることで、タグ付きや endogenous タンパク質の精製に適した条件を探ることが容易になります。PhyTip®カラムを利用することで、以下に記す 3つのことを簡潔に実現できるようになります。

 

① Capture → Wash → Elution の各種ステップの条件検討(最適化の模索)

② 機能的なタンパク質であるかを評価するための少量精製

③ 各社リキッド・ハンドラーに装着することで、タンパク質精製の high-throughput を自動化

 

ゲルろ過やイオン交換クロマトグラフィーと組みあわせることで work-flow の最適化を図れます。small-scale で多くのサンプルを取りあつかう研究員たちの頼もしい味方となるでしょう。

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