溶媒強度の最適化
以前のステップ(フラッシュクロマトグラフィーの最適化、選択性の最適化)で最適な溶媒が決定した後は、Rf 値の範囲が0.15~0.35(CV6.7~2.8)以内で目的化合物が溶出するように溶媒組成(溶媒強度)を調整します。
この範囲内で溶出するように溶媒強度を調整することによって、最適な精製の可能性が大きく上昇します。
選択性と同様に、各溶媒には固有の極性があります。
従って、各溶媒混合物(もしくは移動相)はそれぞれ異なる溶媒強度を持っています(表1参照) 。
混合溶媒の強度計算は他の混合溶媒と比較する際に使います。強度が同じで選択性の異なる混合溶媒を用いた検討を行う場合に役立ちます。混合溶媒の溶媒強度の計算式は最下部をご覧ください。
表1:フラッシュ精製でよく使われる溶媒強度
Solvent | Strength |
---|---|
Methanol | 0.95 |
Ethanol | 0.88 |
2-Propanol | 0.82 |
Acetonitrile | 0.65 |
Ethyl Acetate | 0.58 |
Tetrahydrofuran | 0.57 |
Acetone | 0.56 |
Dichloromethane | 0.42 |
Chloroform | 0.40 |
Diethyl Ether | 0.38 |
Toluene | 0.29 |
Hexane | 0.01 |
Heptane | 0.01 |
Iso-octane | 0.01 |
目的化合物の Rf 値が 0.35 を超えるようであれば、移動相の極性を下げることで分離精製効率は向上します。
化合物の保持と分離度における溶媒強度の影響について例示します。
移動相をヘキサン:酢酸エチル =50:50(溶媒強度 = 0.30)で展開した時、図1の TLC が得られたとします。
図1:ヘキサン/酢酸エチル 50:50(溶媒強度 0.30 )の TLC とクロマトグラム
この時、目的化合物(B)の Rf 値は 0.4(2.5 CV)で、不純物(A)の Rf 値は 0.55(1.8 CV)であるので、ΔCV は 0.7 となります。このように ΔCV が低い場合、フラッシュクロマトグラフィーでの精製は、過負荷が起こらない程度の少量のサンプルであれば可能ですが、あまりおすすめしません。
そこで、 50~60 %以下の非極性溶媒(ヘキサン)で希釈することにより、溶媒強度を下げることで、化合物の保持と CV を上昇させることができます。
溶媒強度を弱めてヘキサン:酢酸エチル =60:40 (溶媒強度 = 0.24)にすると、化合物 B の Rf 値は 0.2(5 CV)まで低下し、不純物 A の Rf 値は 0.3(3.3 CV)まで低下します。 A と B 両方の Rf 値が最適なゾーンである 0.15~0.35 に位置します。
図2:ヘキサン/酢酸エチル 60:40(溶媒強度0.24)のTLCとクロマトグラム
その結果 ΔCV は 1.7 となり、フラッシュカートリッジへのサンプルロードを前者と比べ約 5 倍にすることが可能になります。(フラッシュクロマトグラフィーの最適化 のページを参照)。
特定の混合溶媒で成分保持が適切であることが確認できたら、強度が同程度で 選択性の異なる 別の混合溶媒を調製して比較することもできます。同じ溶媒強度でも、異なる選択性を持つ混合溶媒では、保持と CV が変化します(図3参照)。
[ ヘキサン:酢酸エチル =50:50 ] と [ ヘキサン:ジクロロメタン =30:70 ] はいずれも溶媒強度が 0.3 ですが、酢酸エチルとジクロロメタンの 選択性の違い により分離度が変化し(ΔCV=1.1)、得られるクロマトグラムが異なります。
図3:溶媒強度 0.30 で溶媒選択性の異なる TLC とクロマトグラム
混合溶媒の溶媒強度計算方法
混合溶媒の強度計算式:
(A溶媒の比率x強度)+(B溶媒の比率x強度)
例:
1.ヘキサン:酢酸エチル=50:50
溶媒強度=(0.5×0.01)+(0.5×0.58)= 0.30
2.ヘキサン:酢酸エチル=60:40
溶媒強度=(0.6×0.01)+(0.4×0.58)=0.24
3.ヘキサン:ジクロロメタン=30:70
溶媒強度=(0.3×0.01)+(0.7×0.42)=0.30
溶媒を選択後、TLC で Rf 値の測定により ΔCV 値が算出されたら、フラッシュクロマトグラフィーの最適化 の表2 を参照して、サンプルサイズと ΔCV 値に合ったカートリッジを選択してください。