“冷却しながら加熱”又は”強化型マイクロウェーブ反応”
-本当は何が起きている?
「強化型マイクロウェーブ反応」、同時にマイクロウェーブで加熱している間、反応化合物を冷却するとどうなるかというレポートが数多く存在します。
これは昨今の有機合成において、反応にマイクロウェーブを使用する機会が増えてきているためです。マイクロウェーブのパワーは直接温度に比例するため、”冷却しながら加熱” する時の温度変化をより正確するための研究が進んでいます。
その効果を検証するため、反応容器(5ml vial)の温度を2つの独立したメソッドによって同時に温度を計測出来るよう実験装置準備しました。
- 1つ目は、容器の表面温度を計測する高感度センサーを持つ、赤外線高温計です。
この機器の機能は汎用のマイクロウェーブ合成反応機に付いている従来のIRセンサーより正確で早いのですが、計測する場所は決まっていて、どちらの計測器も容器壁面の表面温度を計測します。 - 2つ目は、容器内に浸されているファイバーケーブル温度センサーです。
この機能はバイアルの中の物質の温度、すなわち、容器内容物の本来の温度を計測します。
温度計測の間、容器にはマイクロウェーブが照射され、同時に容器壁面へ圧縮空気を噴射することでバイアルを外部から冷却します。この状況は特に、”強化型マイクロウェーブ反応”または”パワーマックス”と呼ばれています。2つのセンサーを同時、または個別に使用することによって、内部と外部の温度を同時に計測します。
Fig1. 5mlのDMFを冷却する実験の結果
Fig 1 は、5 ml のDMFを冷却加熱した実験の結果を示しています。
赤色がIRセンサー(外温)、青色がファイバーセンサー(内温)を表します。内温到達温度を180℃に設定し、温度が180℃に到達した時点で、マイクロウェーブ照射を継続しながら冷却を開始しました(Coolong on)。およそ80秒後、冷却と加熱を同時に終了し(Cooling and heating off)、間もなく、DMFを常温に戻すため冷却を開始しました(Coolong on)。
結果、最初の冷却を開始して間もなく、IRセンサーで計測している外部温度は急激に低下する一方で容器の中のDMFの温度(実温)は低下せず、約 55℃の温度差を計上しました。その後、冷却を停止すると内温と外温はほぼ同じ値を示しました。
容器の外壁周辺温度と、反応混合物の内温との差は、反応化合物の組成や濃度によって実質上おおきく左右されますが、IRセンサーで温度制御を行うシステムの場合には、このような結果を生じることが分かりました。
この研究は、”強化型マイクロウェーブ反応” の成功例として以前報告されていたDiels-Alder反応で更に検証されました。すなわち、250W出力一定で冷却しながら マイクロウェーブを照射した際、表示された外温は120℃であり、転換率は75%でした。この際、内温は155℃を表示していたため、次に冷却無しで155℃設定にて反応を実行したところ、ほぼ同等の収率で転換化合物が得られました。
従って、冷却しながらマイクロウェーブを照射した場合には外温と内温とに大きな差が生じ、見かけ上「低温で反応が進行した」というように誤った評価に陥る場合があります。
温度計測の間、容器にはマイクロウェーブが照射され、同時に容器壁面へ圧縮空気を噴射することでバイアルを外部から冷却します。この状況は特に、”強化型マイクロウェーブ反応”または”パワーマックス”と呼ばれています。2つのセンサーを同時、または個別に使用することによって、内部と外部の温度を同時に計測します。
Diels-Alder反応
時間(分) | 温度(℃) | パワー(W) | コンバージョン |
---|---|---|---|
5 | 200 without cooling | 100 | 21% |
5 | 120 with cooling* | 250 | 75% |
5 | 155 without cooling | variable | 72% |