SPEのメソッド開発
選択した充填剤タイプ/保持メカニズムを使用してメソッドを開発する際のポイントをまとめます。
SPE手順は通常6ステップで構成されます(図.1参照)。
- サンプルの準備
- SPEカラムの溶媒和(コンディショニング)
- SPEカラムの平衡化
- サンプルロード
- SPEカラムの洗浄(干渉成分溶出)
- SPEカラムからのターゲット化合物溶出
図.1 典型的なSPE手順
干渉成分を保持し、ターゲット化合物を素通りさせるSPEカラムを利用する場合には、ステップ1~4において干渉成分の保持を促進する条件を採用します。
流速調節
サンプルロード、干渉成分およびターゲット化合物溶出ステップでの流速の調整は重要です。流速が速すぎると、ターゲット化合物保持(サンプルロード)ステップにおける破過や溶出ステップでの回収率低下の原因になります。干渉成分溶出(洗浄)ステップでの流速が速すぎると、最終抽出物に干渉成分が残る原因になります。分析者や実験室が変わっても常に安定した結果が得られるよう、全てのプロトコルで流速を指定することを推奨します。
一般的な流速については、充填剤選択一覧表の表.2 メソッド開発の推奨流速を参照してください。
サンプルの準備
サンプルは、適切な溶媒で希釈して粘性を弱めたり、非極性またはイオン交換充填剤による保持に先立ってpHをコントロールするため、バッファーを添加する場合があります。
a) ターゲット化合物が溶液中にあり、充填剤との相互作用が可能であることを確認します。 サンプルに含まれる粒子物質にターゲット化合物が吸着している場合には、サンプルをSPEカラムに添加する前に粒子物質からターゲット化合物を脱着させます。ターゲット化合物がサンプル中の大きな分子に結合している場合(例:生体液中に存在するタンパク質に結合した薬物)も同様です。通常は、数パーセントの有機溶媒の添加、またはサンプルpHを調整することで解決できます。
b) カラムの詰まりを防ぐため、サンプルの粒子物質をろ過するか、その他の方法(遠心など)で除去します。
c) 非極性充填剤:
- サンプルのpHを調整することによりターゲット化合物のイオン化を抑制し、保持向上させます。酸性ターゲット化合物では、サンプルpHをターゲット化合物pKの2pH単位下に調節します。塩基性ターゲット化合物では、サンプルpHをターゲット化合物のpKの2pH単位上に調節します。
- 塩基性ターゲット化合物の抽出にエンドキャップなしのシリカベース充填剤(C18、C8、C6、C4、C2、PH、CN)を使用する場合、通常は3~8のpH範囲にサンプルpHを調整します。
シリカ粒子の表面に存在するシラノール(Si-O-)基との二次相互作用を使って、非極性充填剤による塩基性ターゲット化合物の保持が向上する場合があります。このアプローチでは、シラノール基(Si-O-)をイオン化し、かつターゲット化合物をプロトン化するよう、サンプルのpHを調節します。
d) イオン交換充填剤では、ターゲット化合物を完全にイオン化する必要があります。弱いイオン交換充填剤(CBA、NH2およびPSAなど)の場合、充填剤の官能基を調節します。
ターゲット化合物イオン化の条件
- 塩基性ターゲット化合物ではサンプルpHをターゲット化合物pKの2pH単位下に調節します。
- 酸性ターゲット化合物では、サンプルPHをターゲット化合物pKの2pH単位上に調節します。
充填剤イオン化の条件
- ISOLUTE CBAでは、サンプルpH>6.8となるよう調節します。
- ISOLUTE NH2では、サンプルpH<7.8 (ISOLUTE PSAの場合<8.1)となるよう調節します。
サンプルのイオン強度が、イオン相互作用を弱めるほど高くならないことを確認することも大切です。これを解決するために、低イオン強度緩衝液で希釈します。サンプルのイオン強度が高い場合や、サンプルpHのコントロールが不十分の場合には、イオン交換充填剤によるメソッドでは回収率が低くなったり、あるいは回収率が不安定になります。
e) 非極性シリカべース充填剤を使用して大量の(>25mL)水性サンプルを処理する場合、サンプル充填中の充填剤ベッドの溶媒和を維持し、ターゲット化合物の十分な回収を確保するため、0.5~5%のメタノールまたはイソプロパノールを加える必要があります。
カラム溶媒和
適切な相界面が充填剤とサンプルの間に存在するよう、ISOLUTE SPEカラムはサンプル充填前に溶媒和する必要があります。典型的な溶媒を充填剤選択一覧表の表.1 に示します。 溶媒和に使用する溶媒和は、一般的に100mg充填剤あたり1mLです。
カラムの平衡化
最大限にターゲット化合物を回収できるよう、サンプル充填前に、準備したサンプルの条件に合うようSPEカラムを標準化(normalize)します。例えば、ターゲット化合物のイオン化を抑制/確保のためにサンプルのpHが調節されている場合には、同じpHとイオン強度のバッファーでカラムを平衡化します。
弱イオン交換充填剤の場合には、充填剤のイオン化を確保して最大容量を得るためにバッファーでpHを調節します(特定の充填剤のガイドラインは充填剤選択一覧表の表.1を 参照してください)。
サンプル充填
ターゲット化合物の抽出効率は流速に左右されます。したがって、「抽出効率」対「流速」の評価は、メソッド開発プロセスの重要な目的の一つです。推奨される流速については充填剤選択一覧表の表.2 を参照してください。
干渉成分溶出
干渉成分溶出(洗浄)に使用する溶媒の選択肢を充填剤選択一覧表の表.1にまとめています。ターゲット化合物を最大限に回収するため、この干渉成分溶出ステップでも、ターゲット化合物保持条件(pHとイオン強度)が維持されるように注意して下さい。
ターゲット化合物溶出
できるだけ少量でターゲット化合物を溶出できる溶出溶媒を選択します。ターゲット化合物が良く溶ける溶媒(や混合溶媒)を選択してください。溶出溶媒は、ターゲット化合物が充填剤に保持される一次および二次相互作用の両方を解除する必要があります。充填剤選択一覧表の表.1に、ターゲット化合物を溶出する溶媒の選択についてのガイドラインをまとめています。メソッド開発中には、ターゲット化合物の溶出効率に対する様々な流速の効果を評価し、プロトコルにおける最適な流速(の範囲)を特定することが重要となります。多くの場合、イオン交換充填剤には遅い流速が適しています。また、XmLの溶媒による一回の溶出ステップよりも、X/2 mL の2分割量の溶媒でターゲット化合物を溶出するほうが有効な場合もあります。
非極性、エンドキャップなしの充填剤を使用して塩基性ターゲット化合物を抽出する場合、表面シラノール基と正電荷を帯びた(またはプロトン化された)ターゲット化合物の間の二次相互作用も克服するため、溶出溶媒を最適化する必要があります。これは、シラノール基のイオン化を抑制するために溶出溶媒を酸性化するか、塩基性ターゲット化合物の正電荷を解除するためにpHを上げることで達成できます。また、1% 1M酢酸アンモニウムを含む溶媒での溶出も有効です。