テクニカルノート PS-TBD
(レジン担持塩基) |
【ケミカルデータ】
PS-TBDはポリマー担持塩基であり、ポリスチレンに固定した二環グアニジン成分(1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)から成ります。PS-TBDは、有機合成および試薬除去に用いる担持第三級アミンであるPS-DIEAレジン、PS-NMMレジンより強力なポリマー担持塩基です。PS-TBDの一般的な用途としては、、フェノール1)およびアミンのアルキル化、ハロゲン化アルキルを用いたカルボン酸のアステル化2)、活性メチレン化合物のアルキル化、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化3)、アリールトリフラートおよびアリールノアフラートのハイスループット合成4)、リゾリン脂質の位置選択的合成5)です。
アルキル化反応において、レジンはキャッチ&リリースプロトコルで使用することができ、それによって酸性種はレジン担持求核剤(例:結合フェノラートを形成しているフェノール)としてPS-TBDレジン上にキャッチされます。生成物は求電子剤と反応すると溶液中にリリースされます。制限試薬として求電子剤を使用することによって、過剰な求核剤はレジンに結合したままとなり、生成物への完全な変換が可能になります。濾過および溶媒の蒸発により高純度で目的生成物が得られます。
【第二級アミンと活性臭化アルキルの反応による第三級アミンの合成】 PS-TBD存在下で第二級アミンと活性臭化アルキルを反応させることにより、一連の第三級アミンを合成しました(反応式.1)。アミンは臭化アルキル小過剰(1.1当量)下 で使用しました。PS-TBD 2.5当量の場合に最もよい結果が得られました。溶媒と反応温度の選択が重要であることが分かり、50℃でTHFを用いた場合と室温でACNを用いた場合に最適な条件となりました。16時間で臭化アルキルが完全に変換され、目的の第三級アミンと温存した第二級アミンの混合物が得られました(約0.1当量)。
反応式.1 第二級アミンと活性臭化アルキルの反応による第三級アミンの合成
MP-Isocyanate(アミン除去用のマクロ多孔質スカベンジャー)を加えて室温で撹拌し、混合物から過剰な第二級アミンを選択的に除去しました。ACN中ではMP-Isocyanateのほうが反応性が高いため、PS-IsocyanateよりもMP-Isocyanateを優先的に使用しました。濾過・濃縮を行って、目的の第三級アミンが均一な生成物として良好~優れた収率(表.1)で得られました。アミン合成の条件は特定のサブ構造について一般化することができる一方で、担体の作用を考慮する必要があります。 例えばethyl α-bromoacetateおよび4′-bromobenzyl bromideのいずれでも、室温でACNを溶媒とした場合のほうが、高温でTHFを溶媒とした場合よりもジブチルアミンとの反応による収率は高くなります(それぞれ71%対30%および70%対60%)。THFを溶媒とした場合に低収率・高純度であるのは、高温では揮発性のアミンが失われ、結果として生じた過剰な臭化アルキルがレジンと反応して四級塩を形成するためと考えられます。対照的に、indole-3-carboxaldehydeと4′-bromobenzyl bromideの反応の場合は、THFを50℃で用いたほうがACNを用いたほうよりも収率は高くなりました(90%対33%)。
表.1 PS-TBDレジンを使用したアミンのアルキル化の結果
【ウィリアムソンのエーテル合成】 ウィリアムソンのエーテル合成でのPS-TBDの使用を、レジンを使用したキャッチ&リリースプロトコールの例として検討しました。一連のフェノールをPS-TBDでインキュベートし、次に、一連の臭化アルキルを制限試薬として用いて処理しました(反応式.2)。最初はPS-TBDを1.5当量および3当量使用して検討しました。フェノールはPS-TBDで1時間インキュベートして担持フェノラートを生成しました。次に臭化アルキルを加えました。PS-TBDレジン3当量で、臭化物はアリルエーテルに完全に変換され、濾過・濃縮後に高純度でした。PS-TBD 1.5当量で同じ反応を行ったところ、大部分のケースでフェノール汚染が起こりました。PS-TBD 3当量のほうが結合フェノラートとして最終反応化合物からフェノールを分離するには有効だったため、THFおよびACNを溶媒として用いた、より網羅的なアリルエーテルの生成に選択されました(表.2)。
反応式.2 ウィリアムソンのエーテル合成におけるPS-TBDレジンの使用
PS-TBDを媒介とした第三級アミン合成とは反対に、ウィリアムソンのエーテル合成ではACNの使用は高温でのみ有効であることが示されました。ACN中でこれらの反応物を55℃で16時間加熱するのが最適で、THF中で実行した同じ反応と比較し、高収率で優れた純度のエーテルが生成されました。THF中での反応は室温で有効でしたが、 生成物の収率と純度にはばらつきがありました。低純度の生成物が得られたケースでは、構造未知の副生成物の混合が認められました。
PS-TBDを使用した結合フェノラートの形成を実証するために、ACNに4-methoxyphenol 0.3Mを加えた溶液をレジン1当量と混合しました。その溶液をサンプリングして4-methoxyphenolの内部環境に対する濃度を測定しました。2時間後、レジンは溶液から4-methoxyphenolの84%を分離しました。第二の実験では、レジン担持フェノラートを濾過し、ACNで洗浄しました。PS-TBDによる4-methoxyphenolの吸収は以前と同様でした。これは、フェノラートPS-TBD塩が安定であり、洗浄して非酸性不純物を除去できることを示します。同様の一連の実験で、THF中でのPS-TBDによるフェノールの吸収は、ACN中の半分でした。
表.2 PS-TBDを使用したウィリアムソンのエーテル合成の結果
【一般的な実験手順】 ● 第二級アミンを使用したPS-TBDレジンのアルキル化 PS-TBDレジン(2.5当量、200mg、1.4mmol/g)をTHFおよびACNそれぞれにアミン(1.1当量、0.49mL、0.25M)を加えた溶液で1時間インキュベートしました。(注:平衡化の時間が短くても同じように効果があるようです)。ハロゲン化物溶液(1.0当量、0.45mL、0.25M)をそれぞれの反応容器に加え、続いてTHFまたはACNのいずれかを1mL加えて合計量2mLとしました。THF中での反応は50℃で16時間行い、ACN中での反応は室温で16時間行いました。その後それぞれの容器にMP-Isocyanateスカベンジャー(10当量、570mg、1.73mmol/g)を加え、反応液をさらに16時間室温で撹拌し、濾過しました。濾液を濃縮し、GCおよび1H NMRで確認した構造によって、純度を測定しました。
● PS-TBDレジンを使用したフェノールのアルキル化 PS-TBDレジン(3.0当量、240mg、1.4mmol/g)を、THFおよびACNそれぞれにフェノール(1.1当量、0.49mL、0.25M)を加えた溶液で1時間インキュベートしました。ハロゲン化物溶液(1.0当量、0.45mL、0.25M)をそれぞれ反応容器に加え、続いてTHFまたはACNのいずれかを1mL加えて合計2mLとしました。THF中での反応は室温で16時間行い、ACN中での反応は55℃で16時間行いました。濾液を濃縮し、1H NMRで確認した構造およびGCにより純度を測定しました。
【参考文献】
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【製品番号】
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