【ちょっと一息…】 マイクロ波に関する記事紹介
マイクロ波の特殊な効果?それともサーマルエフェクト?
石油学会から刊行されている「PETROTECH」の8月号(2008年)において、マイクロ波の特集記事が掲載されました。 マイクロウェーブ合成のメカニズムへの理論的な考察、その将来への期待、医薬低分子に留まらず金属ナノ粒子・高分子・固体触媒反応におけるマイクロウェーブ反応についてなど、主要トピックスがバランスよくカバーされています。 以下にその一部を紹介いたします。
マイクロ波を利用した合成手法に関する研究においてご活躍されている和田先生(東京工業大学大学院理工学研究科)により、マイクロ波の効果について次の3点を解説されています。 「マイクロ波を用いて化学反応を行うときの特殊効果の原因として、3つの効果を提案する。すなわち 、(1)迅速・内部加熱モードの効果、(2)ローカル・スーパー・ヒーティング、(3)化学反応遷移状態に対する電場・磁場の効果である。」(PETROTEC・第31巻・第8号(2008)・p555)(1)の例として、粒形均一な銀・銅ナノ粒子の合成を取り上げられており、実際にラマン分光プローブによる微小領域の温度測定により(1)の効果を実験的に確認されています。(2)(3)については現時点では提案(speculatoin)とされておりますが、同様の実験を成功させることで実証したいとされており、今後に大変期待されるところです。
天羽優子先生(山形大学理学部)によるマイクロ波による加熱の原理的な解説です。マイクロ波による加熱は誘電損失を利用したものなので、線形応答理論に基づいて、誘電緩和の数式を展開されつつ説明されています。和田先生とは対極に、「マイクロ波を用いると、均一かつ迅速かつ継続的な過熱が可能で、化学反応に用いると、ヒーターを使って加熱したのとは異なる収率で化合物が得られたり、より環境負荷の少ない溶媒を使うことが可能になったりする場合があるため、応用が進んでいる。このとき、いつも問題になるのが、「非熱効果」である。熱を与えた以上の何か特異な現象が起きているのではないかということを期待する研究者は多い。しかし残念ながら、非熱効果を支持する実験的証拠は今のところない。」(PETROTEC・第31巻・第8号(2008)・p563)と物理学からの見解を明快に提供されています。 |