【vol.29】固相ペプチド合成で扱うアミノ酸ストック溶液はどのくらい安定なのか?

ペプチドブログvol29

February 28, 2017
Elizabeth Denton

 

今回の投稿では、Fmoc アミノ酸試薬を溶媒に溶解してすぐのアミノ酸溶液を使用して合成したペプチドの純度を比較することにしました。

 

以前の記事で、ペプチド合成を向上させるために 高濃度のアミノ酸 を使用すること、その他の いくつかのコツ について説明しました。しかし、そのリストから漏れていた項目の一つがあり、溶媒に湯調製したアミノ酸溶液は、実際どのくらい安定しているのかという疑問だった。

 

ある日、私はある実験を始めることにしました。私はある 10 アミノ酸配列のペプチドを合成するために必要なFmoc アミノ酸を計量し、溶媒に溶解しました。

 

調製した溶液の一つはキャップをして 4℃ で保存し、もう1つはキャップをして卓上で保存しました。これらの溶液は同じ日に調製し、同じ DMF を使用し、同じ種類のバイアル瓶で保管しました。そして、調整した溶液を一定期間待つことにしました。実際に合成を開始するまでには、2カ月近く保存することになりました。

 

新しく調製したアミノ酸とカップリング試薬の溶液を使用してペプチドを合成し、この特定のペプチド配列の純度のベースラインを構築することにしました。その結果から、保管した溶液との比較を始めました。

 

カップリング試薬として DIC と Oxyma を使用し、75℃で 5分間のシングルカップリングの条件で、ChemMatrix®樹脂を用いて、一般に良く評価されている ACP 65-74 のペプチド配列を合成しました。予想通り,この合成は全自動ペプチド合成装置 Initiator+ Alstra により極めて高い純度で得られました(図1)。

合成したACPの分析HPLCの結果

図1: 直前に調製したアミノ酸溶液を用いて合成した ACP の分析 HPLC の結果。

最初に確認したところ、保存していたアミノ酸溶液は透明で、保存していたプラスチックチューブからの影響は見られませんでした。そこで、前回と全く同じ条件、同じスケールで ACP65-74 ペプチドを合成しました。ただし、この合成では 6週間前に調製し、4℃で保存しておいたアミノ酸溶液を使用しました。ここで重要なのは、カップリング試薬はこの合成のために新たに調製したものを使用していることです。4℃で保存したアミノ酸溶液で合成したペプチドは、直前で調製したアミノ酸溶液で行った場合と同様に、高い粗収量と純度を維持していました(図2)。

合成したACPの分析HPLC

図 2: 6週間前に調製して 4℃で保存したアミノ酸溶液を用いて合成した ACP の分析 HPLC。

次は室温で保存したアミノ酸溶液を使用して合成も行う予定だした。しかし、ふとチューブを見ると……(図3)。

アミノ酸溶液を室温で6週間保存したもの

図 3: 密閉したプラスチック容器に入れたアミノ酸溶液を室温で 6週間保存したもの。すべての溶液が黄色になり、プラスチックから有害な影響を受けた兆候が見られた。アラニン(左)は白濁し、イソロイシン(中央)は大きな沈殿物を含み、チロシン(右)は実際に多少ゲル化していた。

すべてのアミノ酸の溶液が黄色く変色していた。その中には、沈殿物が含まれていたり、液体がゲル化しているものさえありました。また、プラスチックからの影響を受けていることは明らかで、おそらく観察された効果のいくつかが起こった可能性があります。合成装置の安全性を考えて、これらの溶液はこれ以上使用しないことにしました。

 

適切に保存されたアミノ酸溶液を用いて、純度や収率の高いペプチドを合成できることは喜ばしいことですが、まだ触れていない特別な注意点があります。まず、カップリング試薬は常に合成のたびに新しく調製していることです。しかし、アミノ酸の中には、環境に敏感なものがあるのも確かです。

 

メチオニンは溶液中で容易に酸化されるためストック液として調製すべきではないと思いますが、システインやヒスチジンのようにケースバイケースで考えるべきものもあります。私のアミノ酸溶液を使用した経験では、劣化が確認される前にアミノ酸を消費していたことがほとんどでした。

 

この時点では、冒頭で述べた「アミノ酸は4℃で保存した場合、少なくとも6週間は溶液中で安定である」という答えに納得しています。通常の合成を行う場合は、その前にこれら溶液を使い切ってしまう可能性が高いでしょう。

 

ペプチド合成のためのアミノ酸ストック溶液の調製にかかる時間を短縮できましたか?

 

ペプチド合成は初めてになりますか?この他にも、ペプチド合成を始める際に役立つヒントやコツをご覧になりたい方は、リンク を参照してください。

日本語化:2023年3月
ウェブのみ一部修正:2024年8月
PDFファイルダウンロード(340KB, 2023年3月)

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