Biotage Japan ライフサイエンスブログ

Tapping into MAGE potential to develop next-generation cancer therapies
APO-T (http://www.apo-t.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
September 2020, ISSN 2730-6283 (online)

 

ライフサイエンスに関連するトピックを毎月お届け致します。5回目となる今月は進化する「抗体医薬」をテーマに「bi-specific antibody」について紹介したいと思います。今回のおはなしの中心は、がん細胞での発現がおおくみられる *MAGE-A(melanoma-associated antigen A)タンパク質が分解されて生じる neoantigen をターゲットとする抗体医薬の作用メカニズムについてです。

 

* MAGE 遺伝子は12個以上の相同性がとても高い遺伝子群により構成されている。MAGE 遺伝子は melanoma 以外にも肺、子宮、乳腺や大腸などの腫瘍にて発現が確認されているが、精巣や胎盤を除く正常細胞での発現は確認されていない。

 

「がん」の進行にともない細胞は、おおくの遺伝子変異を細胞内に蓄積していきます。これらから生じる mutant proteins も他のタンパク質と同じように細胞質内で proteasome による分解を受け、peptide にまで分解されたのちにERへと輸送され **HLA(human leukocyte antigen)へ結合し修飾を受けます。そして HLA/peptide complex として細胞表面に提示されます(図1)。アミノ酸変異をともなう mutant proteins から生ずる peptide の一部はHLAに結合し提示され、TCR(T細胞受容体)をつうじT細胞に認識される antigen となります。これは neoantigen といわれ腫瘍特異的T細胞により、わずかな違いが認識され「がん細胞」と「正常細胞」の識別がなされます。

 

** MHC(major histocompatibility complex)は、免疫系が体内の細胞や組織を「自己」または「他者」として識別するために利用する糖タンパク質。ヒトにおける MHC のことを HLA といい、数おおくの個人差がある遺伝子であり、1万以上もの遺伝子型が知られている。

NEC’s holistic approach to identifying neoantigens.

図1: NEC: harnessing artificial intelligence powered drug development to provide tailored medicines
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
April 2022, ISSN 2730-6283 (online)
Figure 1.より抜粋

図1の解説;neoantigen は「がん細胞に」特異的または過剰に発現するタンパク質に由来する

遺伝子の変異をともなう mutant proteinsはproteasome により 10 前後のアミノ酸からなる peptide へと分解され HLA と結合したのち、さまざまな修飾を受けた後に細胞表面へと提示される。興味深いのは naked peptide ではなく HLA/peptide complex のみが TCR をつうじ T 細胞により認識されることである。
ER; endoplasmic reticulum, HLA; human leukocyte antigen

通常の抗体は細胞膜を通過することができず、細胞内の antigen をターゲットとして認識することができません。それゆえにターゲットは細胞表面または、細胞外に存在する antigen に限定されています。そこで細胞内の antigen に対する免疫をになうのが T 細胞です。T 細胞は TCR により細胞表面に提示された HLA/peptide complex をスキャンしていき、それぞれの細胞内でつくられるタンパク質をひとつずつモニターしています。

 

がん治療における理想は、正常細胞には無害だけれども「がん細胞」には効果覿面であることです。これをコンセンサスとし、世界中の研究者たちは凌ぎを削っています。オランダに位置する biotech company APO-T は BiTEs(bi-specific T cell engagers)と呼ばれる次世代の抗体医薬の開発を手がけています。この抗体の作用メカニズムは「がん細胞」に特異的に存在する MAGE-A 由来の neoantigen をターゲットにし、T細胞をその「がん」の場所へのみ仕向けさせ攻撃を開始させるものです。

 

MAGE-A タンパク質はおよそ30年前に発見されましたが、近年ではそのユニークな発現プロファイルにより免疫治療のターゲットとして注目を集めるようになってきました。精巣と胎盤にくわえ、おおくの「がん;肺、子宮、胸腺や大腸」で発現していることが明らかになりました。

 

おおくの「がん細胞」マーカーとは異なり MAGE-A タンパク質は、細胞表面ではなく細胞内にみられます。先に述べたような「抗原提示」のプロセスを経た MAGE-A タンパク質由来の HLA/neoantigen complex は、TCRをつうじT細胞により認識されます。この技術の「みそ」は MAGE-A タンパク質を発現している組織である精巣や胎盤では MHC 遺伝子が発現しておらず antigen の提示に必要な HLA が存在しないので、精巣や胎盤の細胞がT細胞による攻撃を受ける心配がありません。それゆえに bi-specific antibody である APO-T BiTEs は  T 細胞のマーカーである CD3 と MAGE-A 由来の neoantigen の両者を認識することで、T細胞をその「がん」の場所へのみ仕向けさせ攻撃を開始させることができます(図2)。

APO-T’s BiTEs facilitate removal of cancer cells by immune cells.

図2: Tapping into MAGE potential to develop next-generation cancer therapies
APO-T (http://www.apo-t.com)
Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
September 2020, ISSN 2730-6283 (online)
Figure 1.より抜粋

図2の解説;APO-T’s BiTEs facilitate removal of cancer cells by immune cells.

APO-T BiTEs は T 細胞のマーカーである CD3 と MAGE-A 由来の neoantigen の両者を認識する。それゆえに「がん細胞」の表面に提示された HLA/neoantigen complex をめがけ、T細胞は「がん」への攻撃を開始する。
ER; endoplasmic reticulum, MAGE; melanoma-associated antigen, TAP; transporter associated with antigen processing & TCR; T cell receptor

HLA には莫大な数の対立遺伝子(allele)があり population において個人差が強くみられます。対立遺伝子(allele)で異なるアミノ酸配列の分布を調べてみると、そのおおくは peptide への結合に不可欠な領域に集中しています。すなわち戦略的にこの領域のアミノ酸配列の多様性が、HLA に結合する peptide のレパートリーを増やしていると考えられます。それゆえに個人により、細胞表面に提示される HLA/peptide complex の種類は豊富であることが知られています。

 

さらに、がん細胞の表面に提示されるHLAの遺伝子型により「neopeptideである」という情報が開示されたりされなかったりするため、遺伝子型が合わないと抗体医薬の治療に効果がみられないことが懸念されています。

 

先に述べたように MAGE-A 遺伝子は12個以上の相同性が高い遺伝子群により構成されています。さらには共発現することもあります。それゆえに個人によって「どの HLA」と「どの MAGE-A 由来の neoantigen」が complex をつくっているかが異なってきます。

現在 APO-T は、この個体差や多様性を網羅できうる multi-MAGE BiTEs と HLA type のくみ合わせの同定ならびに開発に着手しています。

 

新たな抗体医薬を開発するため、世界中の研究員たちは莫大な数の…、

 

①タンパク質の発現

② 抗体の精製

③ 抗体のクオリティ・チェック

 

上記の3つを継続的に「ひとつひとつ」丹念におこなう必要があります。特に下記の2つが大事になります…、

 

  1. プラスミド DNA の精製 → 細胞への transformation → タンパク質の発現と peptide の産生
  2. 抗体の精製 → クオリティ評価 → 動物や人体への投与

 

これらを「ひとつずつ」マニュアルで検証していくと莫大な労力、時間や資金を要します。それゆえに「同じ条件」で「再現性高く」これらのステップをおこなうには、ロボットによるオートメーションが求められてくるでしょう。

 

このような要求に応えられるよう、わたしたち Biotage®はオートメーションに適した製品を数おおく提供しています。PhyTip®カラムはタンパク質、抗体や peptide の精製に適した製品であり、さまざまなアプリケーションに対応しているので、主要なリキッド・ハンドラーに搭載することができます。PhyTip®カラムは「Lab オートメーション」を推しすすめ、研究者をルーティンから解放することで「貴重な時間」を提供しています。

参考文献

  1. Tapping into MAGE potential to develop next-generation cancer therapies
    APO-T (http://www.apo-t.com)
    Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
    September 2020, ISSN 2730-6283 (online)
  2. NEC: harnessing artificial intelligence powered drug development to provide tailored medicines
    Biopharma Dealmakers (Biopharm Deal)
    April 2022, ISSN 2730-6283 (online)

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