テクニカルノート MP-TsOH(65)カートリッジを用いた
(アミン化合物の単離精製カラム) |
シリカゲルベースのイオン交換カートリッジを用いた塩基性化合物精製は、シリカゲルに官能基を修飾していることから、比較的安価にカートリッジを入手できるという利点が挙げられますが、目的化合物をカラムに吸着できる容量およびその強度は十分でない場合があります。例えば弱い塩基などは SCX-2 では十分に吸着保持されず、その結果、精製純度や単離が不十分であることがあります。
一方で、マクロ多孔質ポリスチレンベースのスカベンジャーレジン(イオン交換樹脂)は、シリカゲルベースに比べ約4倍のキャパシティーを保有しており、適切な抽出溶媒を選択することでニトロアニリンのような弱い塩基でさえ確実にキャッチします。通常レジン試薬は反応混合物(溶液)へ添加後、濾過するという操作で取り扱われますが、樹脂をカートリッジタイプにすることで、精製操作がより簡便に実行出来ます。
MP-TsOH(65) は p-トルエンスルホン酸(TsOH)のレジン担持等価体のスルホン化されたマクロ多孔質のポリスチレンレジンです。スルホン化された官能基は、一般的な有機溶媒から脂肪族、芳香族および複素環式アミンを保持します。その過程に於いて、塩基性物質はプロトン化されスルホン酸塩を形成します。本製品はこのレジンをパッキングし、アミンの単離精製用としてデザインされていますが、塩基性試薬、反応基質および副生成物などの除去にも利用されます。カラムサイズは 100mg/3mL から 2.5g/25mL の範囲で選択でき、48または24ポジションブロックにも対応した3ml または 6ml のタブレスカラムも備わっています。
【ケミカルデータ】
【アミンのキャッチ&リリース精製】
(キャッチ&リリース手順)
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【いくつかのアミン保持能力例】
MP-TsOH(65) カラムは、脂肪族や芳香族または複素環式アミンを保持するうえで大変効果的で有るとの認識が得られています。様々なアミンに対する保持と溶出の特徴を、0.2M のアミンと 2種類の溶媒(DCMおよびDMF)を用いて調べました。DCMを用いてカラムを前処理した後(THFやメタノールなどの溶媒もこのステップに使用可能)、アミン溶液を注ぎ、その後DCMでカラムを濯ぎます(1.5mL x 3回)。集められたDCM溶液をGCで分析し、内部標準としてビフェニルを用いることで、保持されなかったアミンを定量化しました(表.1)。
その結果、様々な範囲の一級、二級、三級アミンが完全に保持されることが確認されました。特に、アミノチアゾールや4-ニトロアニリンの様な弱い塩基もDCM溶液から完全に保持されています。一般的に、アミンを完全に保持する為には、アミンに対して 1.5 から 2.0 当量のレジンを用いますが、2つ以上の塩基性官能基を持つアミンに関しては、それぞれの塩基部位に対して1.5 当量のレジンが使用され、4-ニトロアニリンの様な弱い塩基に対しては、3当量のレジンが用いられました。
また、カラムに保持されたアミンは、2Mのアンモニア/メタノール溶液で抽出されます。レジン上でアンモニア交換することでアミンが溶液にリリースされ、抽出溶液を濃縮することで非常に高い回収率で純度100%のアミンが得られました(単離されたアミンにはメディアの分解成分などの不純物は一切含まれていませんでした)。
表.1 MP-TsOH(65) 500 mg/6 ml カラムを用いたアミンのキャッチ&リリース精製
Amine | Volume (ml.) | Amine (mmol) | Resin Capacity (mmol) | Unretained Amine (%) | *Amine Recovery (%) | |
---|---|---|---|---|---|---|
DCM | DMF | |||||
3-Phenylpropylamine |
8.5 |
1.7 |
2.5 |
0 |
0 |
98 |
N-Methylbenzylamine |
8.5 |
1.7 |
2.5 |
0 |
0 |
97 |
N,N-Dimethylbenzylamine |
8.5 |
1.7 |
2.5 |
0 |
0 |
92 |
N-Methyl,N,N-di(2-phenethyl)amine |
8.5 |
1.7 |
2.5 |
0 |
0 |
95 |
4-(2′-Dimethylaminoethyl)morpholine |
4.0 |
0.8 |
2.5 |
0 |
0 |
96 |
2-Aminothiazole |
8.5 |
1.7 |
2.5 |
0 |
0 |
96 |
Aniline |
8.5 |
1.7 |
2.5 |
0 |
0 |
94 |
4-Nitroaniline |
4.0 |
0.8 |
2.5 |
0 |
30 |
97 |
* DCM をサンプル溶媒として利用
尚、4-ニトロアニリンのような非常に弱いアミンに関しては、溶液として用いられる溶媒が保持に影響してきます(表.2)。DCMを用いた場合には完全に保持されていますが、THFやDMFを使用した場合には保持効果が低減しています。このため、非常に弱いアミン塩基には3当量用いることを推奨します。
表.2 弱塩基である 4-ニトロアニリン保持の溶媒効果
濃度(M) | レジン (mmol) | アミン (mmol) | 保持しないアミン量 (%) | ||
---|---|---|---|---|---|
DCM | THF | DMF | |||
0.1 | 2.5 | 1.7 | 13 | 28 | 40 |
0.1 | 2.5 | 1.3 | 8 | 30 | 33 |
0.1 | 2.5 | 0.85 | 0 | 0 | 26 |
DMFやDMSOの様な高沸点溶媒の除去は、合成後の後処理のボトルネックの一つです。しかしながら、MP-TsOH(65) カラムを利用することでこれらの懸念を解消できます。DMFまたはDMSO溶液をカラムに通液後、DCMで完全に高沸点溶媒を除去し、目的のアミンはアンモニアメタノールで抽出/濃縮することで容易に化合物単離が行えます。カラムに通液する際に粘度が高く流速が得られない場合には、吸引または加圧することで時間を短縮できます。500mg/6mL のMP-TsOH(65) カラムを用いて流速 13mL/min で処理した場合においても、アミンは完全に保持されました(表.3)。
表.3 DMF または DMSO 溶液からの MP-TsOH(65) 1g/15mL を用いたアミンの抽出
アミン |
DMF 溶液 |
DMSO 溶液 |
||
流速 (mL/min) |
非保持アミン (%) |
流速 |
非保持アミン (%) |
|
アミノチアゾール |
11 |
0 |
10 |
0 |
3-フェニルプロピルアミン |
13 |
0 |
11 |
0 |
【アプリケーション例】
(還元アミノ化反応におけるアミンの単離)
ピペリジン(0.043g、0.5mmol)、シクロペンタノン(0.05g、0.6mmol)、アセトン(0.5mL)および MP-Cyanoborohydride(2.4mmol/g、0.32g、0.75mmol)をTHF中(4mL)で室温にて12時間攪拌した。その後、溶液を濾過しレジンをTHFで洗浄した(2mL x 2回)。集めた濾液を、4mLのDCMでコンディショニングした1g/15mL のMP-TsOH(65)カラム(2.5mmol)に通液し、続いてDCMでカラムを洗浄し(3mL x 3回)、非塩基性化合物を洗い流した。その後、目的物のアミンをアンモニア/メタノール溶液(2M、4mL)で抽出し、メタノールで完全に洗浄した(4mL x 2回)。得られた濾液を濃縮し、76%の収率でN-シクロペンチルピペリジンを得た(GC純度97%)。
(スルホンアミド反応からの過剰なアミンの除去)
3-フェニルプロピルアミン(0.162g、1.2mmol)、メタンスルホニルクロリド(0.114g、1mmol)およびPS-DIEA(3.2mmo/g、0.78g、2.5mmol)のDCM溶液(3mL)を室温で6時間攪拌した。その後、溶液を濾過しレジンをDCMで洗浄した(3mL x 2回)。集めた濾液を、4mLのDCMでコンディショニングした1g/15mL のMP-TsOH(65)カラム(2.5mmol)に通し過剰なアミンを除き、続いてDCMでカラムを洗浄し目的化合物を洗い流した(3mL x 3回)。得られた濾液を濃縮し、93%の収率でN-(3-フェニルプロピル)メタンスルホンアミドを得た(GC純度100%)。
【製品番号/品目/数量】
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